薬草の花
キハダ(黄膚)【8月】
黄色い樹皮の苦み、食欲を増進
陽春から晩夏までの間、キハダの木にはよくカラスアゲハ類が訪れ、卵を産んでいく。羽状複葉で、樹の幹が白いキハダの木を見つけたら、カラスアゲハの幼虫を探してみるのも楽しい。チョウ好きの友人がバタフライガーデンをつくりたいと思い、庭にキハダを植えた。幼木は十年足らずで幹の太さ十五センチ、樹高も十メートル以上に成長し、初夏には枝先に黄緑色の小さな花を多数つけた。
キハダは全県に生育するが、特に県北部の多雪地帯に多い。このあたりではカラスアゲハ類もよく目にする。さらに信越県境などの山中では薬用に植栽されていて、伐採されたキハダの幹が林道わきにたくさん積み上げられているのを目にしたことがある。
生薬名は黄柏
写真撮影の目的で、庭に植えたキハダの幹を数センチ剥いでみた。黄膚(きはだ)の名のとおり樹皮の内側は鮮やかな黄色であった。黄色い部分をかじるとかなり苦味が強く、これが薬用になる。キハダの生薬名は「黄柏(おうばく)」で、樹皮の内側の鮮黄色の部分を平板状に乾燥したものである。成分にアルカロイドのベルべリンや苦味トリテルペノイドのオーバクノンなどが含まれ、おもに健胃、抗炎症、清熱に用いられる。信州人になじみ深い「百草丸(ひゃくそうがん)」や奈良・吉野の「陀羅尼助(だらにすけ)」は、黄柏が主原料のよく知られた民間薬である。キハダの黄色い樹皮をかじったときの苦味は食欲を増進させるが、黄柏の主作用もそれに由来すると思われる。
Phellodendron amurense ミカン科キハダ属 別名●キワダ、オウバク 生薬名●黄柏
▼花期 五~六月
【ミニ図鑑】ミカン科にはカラタチやサンショウなどアゲハチョウ科の幼哄の食草が多い
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)