生薬とともに
キハダ植樹 2025年 ~⑤来年に向けて~
5月18日にキハダ植樹を行いました。今年も無事にキハダ植樹を行うことができ、多くのご参加、ご支援・ご協力いただいた皆様へ感謝の気持ちで一杯です。そして来年に向けて考えていることがあります。
1. 混交林の植樹を振り返って
昨年からキハダを含む混交林の植樹に取り組み、今年で2年目となります。実施しながら疑問として頭を巡らせていたことがあります。
① キハダ以外の樹種として、ヤマザクラ、イロハモミジ、エンジュ、エゴノキを植樹しているが、これらの樹種で本当に良いのか?
② わざわざ混交林を植樹する必要があるのだろうか?
混交林の植樹をなぜ実施しているか?これは、源流の里である木祖村において、森林の多面的機能を発揮する豊かな森、天然林に近い森を未来の世代に残すことを目指しているためです。植樹する樹種はなるべく植樹地に適したものを選定しているつもりですが、やはり人為的な要素は否めません。
また、今年4月に初めて昨年の植樹地に生育調査に行った際、多くの植樹した木々が芽を出していることに大きな喜びを覚えた一方で、気づいたことがありました。それは植樹していないが、大きく育っている他の木々の存在でした。例えば、昨年植樹したイロハモミジの稚樹のすぐ隣に、植樹したものより大きな天然のイロハモミジが育っていました。それ以外にも、タラ、ナラ、カラマツなど様々な天然の稚樹が芽を出していました。あれ??そもそも他樹種を植樹する必要ある?!と思ってしまいました。
特に昨年、今年と植樹させていただいている鳥居峠は、植生の豊かな場所です。多くの木々から風や鳥によって運ばれ、落とされた埋土種子があり、針葉樹を間伐・皆伐すれば芽を出すのだと思います。そのような場所でわざわざ人間が手を加える必要があるのだろうか?という根本的な疑問が湧いてきました。
2. 天然更新のキハダの存在
そうこうしている間に、今年のキハダ植樹準備のため、4月に植樹予定地に行くと、天然更新のキハダの稚樹が沢山生えていることが判明しました。ここは元々カラマツ・アカマツなどの針葉樹林でしたが、昨年の2024年春に皆伐され、1年ほどそのままにされていた場所です。調査すると0.25haほどの面積に1400本以上のキハダが芽を出していました。
このことは、大きな規模でのキハダ植樹に取り組み始めてからの過去5年間の中で、一番うれしかった出来事の一つでした。信州木曽の伝統薬「百草」が今に伝わるにも関わらず、現代では天然更新のキハダに巡り会う機会のほぼない木曽の地です。しかし植樹予定地から300mほど離れた場所にキハダの雌木(過去に植樹されたと思われる)があります。鳥が実を食べて糞を落とし、土に埋まった種子が多数存在する中、針葉樹林を皆伐し、陽の光があたるようになったことで、芽を出したものと思われます。この場所を今年の植樹地とすることはやめ、成長を見守ることとしました。
これだけ沢山のキハダが自然に芽を出したことに大きな喜びを覚えました。そして、天然のものの大きな力に感動を覚えました。現在の木曽谷の山々は、戦前戦後に大量に植樹されたカラマツが面積の多くを占めています。しかし、やはり木曽はキハダ生育の適地であり、古くは良質な天然キハダの宝庫だったのではないか、よって今からでも取り組み方によっては、再び良質なキハダの育つ森を形成することができるのでは、と思いました。そしてこのことは、弊社のキハダへの向き合い方を、大きく転換させる出来事となりました。
3. 来年以降に向けて
具体的には、来年以降、下記のことに取り組みたいと考えています。
1) 植樹と天然更新キハダ成長促進の2本柱でキハダを生育
これまで、国内産キハダが年々減少する中で、キハダを生育する唯一の方法は、キハダ植樹であると考えてきました。しかし、天然更新のキハダが見つかったことで、天然の力を借り、委ねることも、キハダ生育の有効な方法であると気づきました。このため今後は2本柱で活動していきたいと思います。
柱①:キハダ植樹
従来通りキハダ植樹は継続します。またキハダを含む混交林の植樹にも取り組んでいきます。ただし混交林の植樹法を大きく見直します。詳細は下記2)に記載します。
柱②:天然更新キハダの成長促進
キハダの雌木が近くにある針葉樹林を皆伐・間伐すると、その場所に天然更新のキハダが芽を出す可能性があると思います。そのような場所を確保し、天然更新のキハダが生えてきた場合は、下刈りなど成長に必要最低限の施業をしながら見守ることも、植樹と並行して実施していきたいと思います。
なお、天然更新のキハダは今年見つけたばかりのため、どのようにしたら、成長を実現できるのか、まだ明確には分かりません。今年から早速、下刈りするエリアとそうではないエリアを設け、検証を開始しました。今後、生育状況を見守りながら、試行錯誤を繰り返したいと思っています。
2) 天然更新の力を大きく借りた混交林植樹 ~あえて「植えない」選択~
来年は、天然更新の力を大きく借りた植樹に取り組みたいと考えています。あえて他樹種の苗木を沢山植樹するのではなく、植樹地に生える様々な天然更新の木々を大切にすることで、自然な森を形成していくことができればと考えています。
具体的には、キハダ以外の他樹種は、極力植樹せずに、混交林の形成を目指します。昨年、今年の混交林植樹では、パッチワーク状混植の手法を取りました。樹種ごとのパッチワークをつくり、隣り合うパッチワークには異なる樹種を植える、という方式です。例えばキハダのパッチワークの隣に、イロハモミジのパッチワークを植樹する、といったやり方です。(パッチワーク状混植についてはこちら)
しかし来年からは、キハダのパッチワークの隣は、「何も植えないパッチワーク」を作ってみようと思います。そうすると、「何も植えないパッチワーク」には、様々な樹種が自由に生えてくると思います。キハダのパッチワークの成長を脅かさない限り、そのまま大切に見守ろうと思います。そうすると、本当にその場所に適した多種多様な樹種が生育し、天然に近い森になっていくのではないかと思います。人間による植樹の省力化にもつながるものと思います。
3) キハダと同様、年々減少している樹種を混交林の対象樹種に
混交林植樹では、上記の「何も植えないパッチワーク」を基本とします。しかしあえて植樹するパッチワークも一部は設けたいと思います。そちらには、キハダと同様、年々減少しているものの、地域産業に欠かせない樹種を植樹したいと思います。
今年の植樹の開会式で、ご来賓として出席いただいた奥原秀一 木祖村村長が、木祖村には木を使った産業が2つあり、ひとつがお六櫛、もう一つが百草・百草丸、というお話をしてくださいました。お六櫛は、長野県の伝統的工芸品でミネバリの木が使われますが、それも年々減少しており、お六櫛組合の方々が植樹に取り組んでいるそうです。そのお話を伺いながら、あれ?昨年から混交林の植樹に取り組んできたのに、なぜミネバリのことが思い浮かばなかったのだろうと思いました。そして弊社では、来年からキハダと一緒にミネバリも植樹したいと思います。鳥居峠には古くからミネバリが生育していたそうです。生育環境や成長のスピードはキハダと異なると思いますので、これから一年をかけてミネバリについても勉強したいと思いますが、天然の原料の確保に困っている産業同士、できることは協力していきたいと思います。また木曽は漆工芸でも知られています。漆についてはかぶれるそうなので、中々一般参加者の皆様と植樹するのは難しいかもしれませんが、混交林の候補に含め検討していきたいと思います。植樹するのであれば、木曽の地域に古くから生育する樹種をえらび、天然林に近い森を目指していきたいと思います。
4. 最後に
植樹は森の始まりです。一度植えた苗木は、植え方により生死が左右され、また生きている間、その場を動くことができません。そして木々の周り、土の中の生き物の生態系にも大きな影響を及ぼします。そこに手を加える人間の私達には大きな責任があり、本当に畏れ多いことと毎年、毎年思いながら植樹を行っています。一方で、豊かな森林は未来の世代への贈りものと思います。現代の私たちと同様に、多くの生き物が住まい、美しい水を育む森、郷土の里山を未来へつなぎ、次の世代の人たちの暮らしも豊かで素晴らしいものとなりますように願っています。
素晴らしい天候に恵まれ、今年も無事に植樹作業をさせていただきましたこと、感謝の気持ちで一杯です。参加いただきました皆様、ご支援・ご協力いただきました皆様へ心から感謝しております。また来年に向けて、自然から大きな気づきをいただき、新たな取り組みを実施していきたいと思います。今後とも引き続きお見守りくださいますようどうぞ宜しくお願いいたします。