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生薬の話

キハダと混交林の森づくり

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 新緑がいよいよ美しくまぶしい季節です。木曽谷を通る風は爽やかで心地良い香りを運んできます。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 さて、5月18日、弊社ではキハダ植樹を行いました。多くの皆様にご参加いただき、ご支援・ご協力いただきましたお陰で、鳥居峠のふもとに安全、無事に植樹が出来ましたこと、心より深く感謝申し上げます。今年のキハダ植樹は、前号ブログでご紹介の通り、キハダのみならず、混交林の植樹も行いました。混交林の植樹は初めてのことでしたが、未来に向けた試行錯誤の第一歩として行いました。本年どのように実施したかご紹介いたします。

専門家のご指導

 植樹に先立つ4月30日、長野県林業総合センター及び長野県地域振興局林務課より、専門家の方々に植樹地へご来訪いただき、ご指導をいただきました。crude_drug_240430_kihadashokuju.jpg

植樹地の入口に立った専門家の方の第一声は「ここはキハダの適地ではありませんね」でした。厳しいご見解にショックを受けながら理由をお尋ねしました。キハダは日当たりと水を好みます。沢筋やくぼ地によく生えていますが、植樹地は山の斜面の途中であり、水が豊富ではないと思われるということでした。

 しかしその後、奥の北の方へ進み様々な場所をご覧いただく中で「や、ここに水の道が見える」「ここは、この植樹地の中では、キハダが育つかもしれない」というお話がありました。素人の私どもには見えませんでしたが、斜面の東から西(高い方から低い方)にかけて水の流れる道が見え、更に斜面の中でも多少くぼんでいる場所に水が広がる可能性があるということでした。植樹地の中にキハダが育つかもしれない場所がありホッとしました。

 「日野製薬さんでは普段キハダ皮むきなどでキハダが生えているところを頻繁に目にすると思いますが、その場所をよく見て覚えて土地を選ぶべきですよ」というお話をいただきました。自然をよく見て学べというご指摘であり、その通りと思いました。一方、毎年、植樹地を探すことは容易ではありません。弊社は木曽地域内に植樹することを希望していますが、翌年植樹する土地は、前年またはそれ以上前から探し始め、様々なご縁のつながりによってようやく確保することが出来ています。この現実の中で、選ぶ余地がある場合に、キハダにより適した土地を選べるような「目」を持っていなくてはならないと感じました。

 植樹地の周囲に生えている樹種について教えていただきました。サクラ、モミジ、ナラ、クリ、カエデ、アオダモなど様々な広葉樹が生えていました。「混交林にするなら天然更新で行くのが良い。これだけ周りに色々な樹種があるので、勝手に生えてくると思う。」というアドバイスもいただきました。そして下刈り、間伐の方法についても伺いました。専門家の方に直接植樹地までご足労いただいたお陰で、現場を見ながら詳細なご指導をいただくことができました。大変感謝しております。

 今回のご指導のエッセンスは「自然をよく見て学ぶ」「自然の力を借りる」ということであったと思います。このことを重要な指針とし、今年の植樹法を検討することとしました。

どのような考え方で進めるか?

 さて、専門家のご指導を受け、弊社はどのような考え方で今年の植樹を行うのか、整理する必要があると考えました。キハダのみならず、混交林を植樹したいと考えた経緯は、前号ブログでご紹介した通りです。天然林に近い森づくりを行い、森林の多面的機能を発揮する美しい森でありたいと願っています。またキハダには、のびのびと成長してほしいということも願っています。その方が良質なキハダになるだろうと考えるためです。一方で、弊社はキハダの樹皮である生薬オウバクを収穫し薬づくりに用いるために、キハダを植樹しています。無論、収穫の効率や費用も考慮する必要があります。これらのことはある意味、相反するゴールです。しかし相反するからこそ、各々の折り合いをつけるポイントを見出し、実現のために試行錯誤しなくてはならないと考えます。

 弊社がキハダ植樹を通して目指すことは:

 「良質なキハダの生育」×「生薬原料としての収穫」×「森林の多面的機能の維持と発揮」

 のいずれも両立することです。

 このためにキハダが成長するまでの25年の歳月を通して、検証を繰り返していこうと思います。植樹、下刈り、間伐を検証と学びの機会にもするということです。すぐに答えは出ないものと思いますが、作業を確実に実施することで情報を蓄積し、良い方法を見出していくことが出来ればと思います。

 弊社では、2021年にキハダ植樹を大きな規模で開始した際、「木曽の豊かな自然と風土の中でキハダを大切に育て、将来の薬づくりに生かし、多くの方々の健康長寿にお役立ていただきたいとの願いを込めて、キハダの植樹を行う」ことと同時に、「キハダの植樹から生育までの長年の年月を、木曽の森、土、水についての学びの期間ととらえ、情報の収集、蓄積、発信ならびに学習機会の提供に寄与することを目指す」と定めました。まさに原点に立ち返り、学びを得るのだ、今年は混交林についての学びの初年度なのだ、と思うと、すっと腹に落ちたような気がしました。

今年の植樹法

具体的な植樹法をご紹介します。

●2つのエリアの設置

 今年の植樹では、植樹地を2つに分割し、「キハダ植樹エリア」と「混交林植樹エリア」を設けました。キハダ植樹エリアには、従来通り、キハダのみを植樹します。一方、混交林植樹エリアには、キハダを含む5つの樹種を植樹することとしました。キハダ植樹エリアは、専門家の方が「水の道が見える」とおっしゃった北側とし、混交林は南側としました。

 

 キハダ植樹エリア:キハダのみを植樹

 混交林植樹エリア:キハダ、ヤマザクラ、モミジ、エンジュ、エゴを植樹

 

 エリアを分けたことには2つの理由があります。一つ目は、現時点では収穫と検証を分けた方が良いと考えたためです。二つ目は非常に現実的な理由で、キハダの苗木を既に大量に育苗いただいていたため、キハダ単独で植樹するエリアが必要だったためです。

 

●キハダ単独の植樹

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 キハダ植樹エリアには、キハダのみを植樹しました。弊社本社のキハダの成木より2021年秋から冬にかけて採取した実の種から2023年に育苗いただいた苗木を400本植樹しました。また、北海道に弊社のキハダの取り組みにご賛同いただきご協力いただいている会社様があります。こちらの山林のキハダより、2022年秋から冬にかけて採取いただいた実の種から2023年に育苗いただいた苗木も100本植樹しました。

 

●パッチワーク状混植

 混交林植樹エリアでは主に「パッチワーク状混植」を行いました。地方独立行政法人北海道立総合研究機構 森林研究本部林業試験場道東支場 中川昌彦氏による『パッチワーク状混植で混交林をつくる』を参考にさせていただきました。

 パッチワーク状混植とは、同林業試験場で考案された手法で「各樹種をそれぞれ何本かのかたまり(パッチ)として植栽し、樹種の異なるパッチを混ぜて配置し、パッチワーク状に混植して混交林を造成する方法」です。

 天然林の調査結果を踏まえ考案されたこの方法は、「パッチで植えることで種間の競争をパッチの境界部に限定して和らげるとともに、植えた当時はパッチを単位とした混交林だとしても、パッチ内の競争で本数が減ってくると個体を単位とした混交林ができる」との考えに基づいています。また、パッチ間の競争を更に緩和するため、パッチとパッチの間にすきまを設けることも提案されています。

 今回のパッチワーク状混植では、1つのパッチの面積はおおよそ4.5m×4.5mで、パッチ内の苗木は9本、苗木同士の間隔は1.5mとしました。また、キハダは初期成長が遅いことから、他の初期成長の早い樹種に負けないよう、パッチとパッチの間に、おおよそ1.5mのすき間を開けました。

 また、樹種の配置においてもいくつかのことを考慮しました。今回キハダの他にヤマザクラ、モミジ、エンジュ、エゴを植樹しましたが、ヤマザクラは初期成長が早いと伺ったため、キハダと隣り合うパッチにヤマザクラを配置しないようにしました。更に、鳥居峠の歩道に面した部分は、登山者の方を美しい森林がお迎えし、春は美しい花を、夏は青々とした新緑を、秋は彩り豊かな紅葉を楽しんでいただきたいと考え、全ての樹種が見えるようにパッチを配置しました。

  

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●間伐を減らすための試行錯誤

 混交林植樹エリアの一部には、パッチではなく、1本ずつ異なる樹種の苗木を隣り合わせに植樹する小エリアも設けました。キハダの隣に、キハダより成長が遅い、または同程度で、背の低い木を植樹することで、キハダの幹が真っ直ぐ伸び、皮むきしやすい状態を確保しながら、間伐を必要としない状態をつくることができないか、と考えたためです。そううまくいくものではないと思いますが、検証してみることとしました。

植樹当日

 5月18日の植樹当日は、雲一つない青空の美しい日でした。このような日に植樹させていただけること、心より感謝の気持ちで一杯となりました。植樹には2歳から74歳まで70名の方々が県内外から参加してくださいました。crude_drug_240531_kihadashokuju5.jpg

 植樹は5班に分かれて実施しました。各班には専門家の方についていただき、植樹方法を参加者の皆様にご指導いただいてから、植樹を開始しました。また各班の班長は弊社の社員が勤め、班員の社員と協力し、皆様が安全に植樹いただけるよう注意を配りました。参加者の中には、初めて植樹に取り組まれる方もいらっしゃいましたが、皆様本当に一生懸命に植樹をしてくださいました。苗木が飛ぶようになくなり、鳥居峠においては、予定より大幅に早く植樹が終わりました。

 植樹が終了した後、とてもきらきらとした、温かい空気が植樹地全体に満ちているように感じました。木陰に座って休まれる皆様の間に、同じ時を共有した連帯感のようなものが漂っているように思いました。皆様の充実した笑顔を拝見し、大変うれしく有難く感じました。

 今後、植樹地の周りにベンチを置き、鳥居峠を登る方、下る方が靴ひもを結びなおしたり、水分をとられたり、休憩されながら、美しい森林を通る風や音、木々や光の色を楽しみ、キハダ及びそれ以外の樹種をご覧いただく場所を設けたいと考えております。未来へつなぐ森となりますように、心より願っております。

 なお、鳥居峠への植樹と並行し、昨年、一昨年にキハダを植樹したやぶはら高原スキー場ゲレンデ跡地への補植も行いました。こちらを担当した木曽森林組合様と弊社社員は、午後15時頃まで植樹を行い、真っ黒に日焼けした精悍な様子で戻ってきました。大変な作業を担当したこちらのチームにも心から感謝しています。

  

 植樹は、苗木の命の成長のはじまりです。その場に立ち会うことは、畏れ多く、また幸せであり、自然の恵みへの感謝の気持ち、静かな感動が心の中にじわじわと湧いていきます。大きく育ちますようにと祈りと願いを込めて植樹を行います。この大切な時を皆様とともに共有できましたこと、心より感謝しております。今後、下刈り、補植、除伐、間伐などを行いながら、大切に成長を見守ってまいります。この時に、自然の力を借りること、自然をよく見て学ぶことを実践していきたいと思います。ご支援、ご協力いただいた多くの方々に、心より深く御礼申し上げます。

 

日野製薬株式会社

代表取締役社長 石黒和佳子

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参考文献:

長野県 【長野県の特用林産物 ーキリ、 1980 ルシ、キハダについて一 】

長野県林業指導所【キハダ林造成技術、 1985】

日本森林技術協会 森林技術 No.883 2015.10 【「混植」のすすめ ~混交林の可能性~】東北大学大学院 農学研究科 教授 清和研二氏

同【針葉樹人工林から針広混交林をめざす―広葉樹樹下植栽による混交林化】兵庫県立農林水産技術総合センター 森林林業技術センター 藤堂千景氏


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