薬草の花
コケモモ(苔桃)【7月】
※コケモモの花期は5月~7月です
高山で精一杯に咲く
(写真①:小さな鈴の様な白花。下向きにまとまって咲く)
初秋に北アルプスの縦走路を歩くと、足元に真っ赤に熟したコケモモの実が目につく。一粒つまんで噛み下すと、酸っぱさがロに広がる。北半球に広く分布し、本州では各地の高山に自生する小灌木である。コケモモの実は外国の話によく出てくるが、北欧ではジャムや果実酒に加工して利用してきた。小さな実を食料にするくらいだから、当地ではさぞかし群生して繁茂しているのだろう。
コケモモの樹高はわずか十~十五㌢と低いが、丸みを帯びた光沢のある厚い小さな葉が特徴である。
初夏に純白の可憐な花を咲かせる。虫たちの眼にその存在を目立たせるため、 数個ずつまとまって精一杯に自己を誇示するその姿はけなげである。
コケモモの実は消化器疾患に薬効があるとされるが、薬草として利用されるのはおもに葉で、コケモモ葉と呼ばれる。一方、ヨーロッパではクマコケモモの葉をウワウルシと呼び、尿路殺菌薬および利尿薬として膀胱炎(ぼうこうえん)や腎盂炎(じんうえん)に用いてきた。薬効成分はハイドロキノンとその配糖体であるアルブチン、フラボノイドのイソクエルトシトリンなどである。ハイドロキノンは化学工業でも得られる、強い還元作用と抗酸化作用を持つ物質で、種々の医薬品や染料、写真現像薬の中間原料になる。
(写真②:赤い実は径10ミリたらず。輸入されジャムなどにも。)
ヨーロッパ産のクマコケモモの代用として、日本では昭和初期にコケモモ葉が知られるようになったが、現在は高山植物を保護する立場から採取は禁止されている。さまざまな医薬品が化学合成や微生物の培養で得られる現在では、たとえ民間薬としての利用でも貴重な植物を採取してはならない。
Vaccinium vitis-idaea ツツジ科スノキ属
【ミニ図鑑】ツツジ科スノキ属の常緑小低木。ブルーベリーの仲間も同属。
▶花期 5~7月
(写真③:同属のクロマメノキ(アサマブドウ)。ブルーベリーの仲間)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)