生薬とともに
キハダ植樹 2025年 ~④うれしかったこと~

今年のキハダ植樹時にうれしいことがいくつもありました。これらについてご紹介します。
1. 植樹地近くに天然更新のキハダの発見
今年のキハダ植樹は木祖村の鳥居峠ふもとで行いました。元々カラマツやアカマツが生育していた針葉樹林を皆伐した土地です。植樹地の南端に、天然更新のキハダがあることに、植樹に参加いただいていた木曽森林組合の技師の方が気づいていただきました。胸高直径は恐らく20cm程度、高さは3~4mのキハダの成木です。少しひょろりとしていましたが、これには大変うれしくなりました。理由は2つあります。
一つは、今年の植樹地はキハダが天然でも成長する環境であることを示しているためです。キハダは日当たりがよく水の豊富な場所を好み、育つ環境を選びます。しかし成木にまで大きくなった実績が目の前にあるということは、植樹した苗木も今後大きく成長する可能性があります。このことは大きな励みになります。キハダのすぐ近くに、大きなシダ植物がいくつも生えており、水が豊富な環境なのかもしれません。高い針葉樹林に囲まれてよくぞ大きくなったね、と声をかけたくなりました。
もう一つの理由は、そもそも木祖村で天然更新のキハダを見かけたことがなかったためです。信州木曽の伝統薬である百草が今に伝わる理由は、木曽に良質なキハダが多く生育していたためと想像しています。しかし現代の木曽地域おいて、山林内にキハダをほぼ見かけません。里でキハダを見かけますが、いずれも過去に植樹されたものです。百草の伝わる地なのに、なぜ天然のキハダが育っていないのだろうと常々不思議に、少し悲しく思ってきました。しかし、今回天然更新のキハダが見つかったことで、やはり木祖村はキハダが自然に生える場所なのだ、それも成木にまで成長するのだ、と大変うれしく思いました。このことはとても大きな力を与えてくれました。
木祖村では、戦前戦後に主に電柱にするためカラマツが多く植樹されました。紅葉の時期になると村内の山々はカラマツの紅葉でほぼ黄色一色になります。きれいですが、少し違和感のある状態でもあります。既に伐期を迎えた高林齢のカラマツも多く、良き利活用先を見つけ、主伐・再造林を進めていくことが求められています。
現代の私達が目の当たりにする森は、あくまで長い歴史の中の一断面に過ぎないと思います。カラマツが大量に植樹される前の山はどのようであったかと想像します。生活に燃料として木が使われ、農業が盛んだった時代は、はげ山や畑が多かったようですが、奥地、またはもっと古い時代には、キハダを含む多種多様な樹種の生育する森であったのではないかと思います。現在のカラマツ林を主伐後、どのような森づくりをするかは、各山林所有者の考えに委ねられます。キハダを含む多様性に富んだ森を再興できるかもしれない、私たちの可能な範囲でこれを目指していきたいと希望が湧いてきました。
なお、今回の植樹作業後に、森の中を5分ほど歩いて、昨年の植樹地の見学に向かいましたが、その途中にも、キハダの小さな稚樹が1本だけ生えている場所がありました。そこは、主にカラマツ林ですが、1本だけ伐られたのか折れてしまったのか、上を見上げると樹冠にぽっかり穴が開き、陽の光が差し込んでいました。陽の光を得て、早速出てきた実生のキハダに、えらいね、と声をかけてしまいました。そのキハダそのものが、希望の光のようでした。
今年は、これらの2本以外にも、村内に天然更新のキハダを多く見つける年となりました。「天然更新のキハダ」は弊社にとって今年を代表するキーワードです。今後の私達のキハダへの向き合い方を変える、大きな転換点になるような出来事でした。天然更新のキハダに大きな力をいただいて、今後の取り組みを発展させていきたいと考えています。
2. 源流の森づくりであることの実感
植樹が終わり、専門家の方々を、他の山林の見学にご案内する際、前日からの大雨で、林道に水の道ができ、流れている場所がありました。この水は、まさに植樹地の方から、木曽川の支流である笹川の方へと流れていました。笹川はその場所から約500m程度で木曽川に合流します。その様子を見て、植樹した森の水が、木曽川の水になることを実感しました。森林に降る雨は、土に深く浸透し、ゆっくり濾過されて川の水になるため、斜面の表面を流れていくわけではありませんが、地中においても水の流れる方向は同じと思います。
今日植樹した木々が成長し、その足元の土に雨が染み込み、長年をかけて育まれる水は、本当に木曽川の水になるのだ、植樹した苗木が大きく育つと、本当に源流の森になるのだと、実感を持って感じることができました。そして改めて、キハダ植樹は、源流の森づくりとイコールなのだと確信を持つことができたのです。これまでなぜか、キハダ植樹は弊社独自の取り組みで、源流の森を守る取り組みは公益的な別のことのように感じてきました。しかしキハダ植樹そのものがまさに源流の森づくりなのだ、キハダとそれ以外の樹種を含む、豊かな森が生育するよう取り組むことが、源流の森を守ることそのものなのだ、と大規模な植樹を開始して5年目にしてようやく腹落ちすることができました。このことは、弊社の今後の活動に、大きな核となるものを与えてくれたような気持ちがしています。
3. 多くの方々にご協力をいただき植樹
今年の植樹には、県内外から80名を超える皆様にお集まりいただきました。また、植樹の実施にあたり、地域行政、団体の方々に様々なご協力をいただきました。素晴らしい天候に恵まれ、多くの方々と力を合わせて、無事安全に植樹できましたことが、何より有難く、うれしいことでした。人が手をかける森である以上、木々によく成長してほしいと願いながら、現場に臨むことはとても大切と思います。今回参加いただいた皆様は本当に懸命に植樹に取り組んでいただきました。今後もキハダを含む木々が大きく成長する過程において、皆様のお力を欠かすことはできません。心から御礼申し上げるとともに、今後も引き続き長年に亘り、ご一緒に森の成長を見守っていただけましたら幸いです。
4. 社員の頑張りに感謝
手前みそではありますが、今年の植樹でも、社員の皆がとても頑張ってくれました。今年の植樹地は、車で行ける場所から山道を5分ほど登った場所にありました。約100人分のクワ、ヘルメット、飲料の運搬は全て人手でした。また植樹中は班長として植樹のペース配分や苗木運搬。植樹後は、残った苗木の追加植樹、忘れ物の確認や道具運搬と戻しなど。夕礼時に集まった社員の皆が、朝礼の時と比較して、各段に日焼けし真っ黒・真っ赤になって立っている様子を見て、涙が出そうになりました。裏方として頑張ってくれた社員の皆に心から感謝しています。
今年も素晴らしい天候に恵まれ、無事安全に植樹が出来たことが何よりうれしいことでした。キハダ植樹が源流の森づくりにつながること、この時天然更新の大きな力を借りることが大切であることを、実感として学びました。ご参加、ご協力いただきました多くの皆様へ心から感謝しております。
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