生薬の話
キハダの生育調査と今年のキハダ植樹

5月に入り、爽やかな新緑の季節が訪れていますが、いかがお過ごしでしょうか?5月は弊社においてはキハダ植樹の季節です。大変ワクワクとしております。今年の植樹に先立ち、昨年木祖村の鳥居峠に植樹したキハダの生育調査を行いました。
昨年の植樹地は、鳥居峠の登山道入口にあります。新緑の木々の下、様々な山野草の花が咲く、青空の美しい日に、心躍る気持ちで植樹地に向かうと、昨年植樹した木々から新芽が出ていました。
弊社では昨年から、キハダを含む混交林の森づくりを目指しています。これに伴い、キハダを中心とし、それ以外の樹種として、ヤマザクラ、モミジ、エンジュ、エゴノキの植樹も行いました。植樹時に、どの樹種をどこへ植樹したかを示すマップを作成していました。一本、一本、見て回り、生育状況を確認し、マップへの書き込みを行いました。
生育調査の内容と結果概要
生育状況として確認したのは主に次の点です。
・新芽が出ているか?
・折れていないか?
・皮がはがされていないか?
・樹高はどの程度か?
・その他特筆すべき点はないか?
この結果、各樹種について、下記のような生育状況が見られました。
◎キハダ
キハダは、多くが新芽を出していました。青々とした立派な芽が出ているものもあれば、1mm程度の小さな芽がようやく顔を出しているものもありました。残念ながらもう生きていないかな・・・と思うキハダに、小さな黄緑色の新芽をみつけた時の喜びは、言葉では言い表せません。折れたり、皮がはがされたりしているキハダの根元や、脇から生え出た枝に新芽が出ていると、けなげで、思わず頑張ろうね、と声をかけてしまいました。
折れたキハダは、下刈りの時に誤って伐ってしまったものが多いです。また皮がはがされているキハダは、何かの動物によって食べられたものと思われます。根からではなく、地上数センチ~数十センチのところからはがれているため、カモシカ、鹿、猿、ウサギなど様々な候補が考えられますが、今後専門家の方にご見解をお聞きしたいと思います。幹の周りを一周ぐるりと食べられたキハダは、その部分より上は生き続けることができません。2、3本該当するキハダがありました。しかし幹の半周程度しか食べられていないキハダは、生きています。全国的に鹿が増加し、皮がはがされ、新芽が食べつくされる事象が報告されています。しかし木祖村では、現時点ではまだ鹿の爆発的な増加に至っていないため、植樹地には鹿よけネットをはっていません。このまま何とか大きく育ってほしいと願うばかりです。
また、折れたり、皮がはがれたりしていないものの、新芽が出ていないキハダもありました。触るとぐらりとし、地中の黄色い根が見えてしまうキハダもあり、これらは植樹後にうまく活着しなかったものと思われます。
樹高は、約120cm程度まで成長していました。昨年の植樹時点では約100cmでしたので、1.2倍の高さです。一番高いもので175cmまで育っていました。成長の度合いに驚き、うれしく思いました。
木祖村では朝晩がまだ零下になることがあり、新芽の中には先端が凍みて黒く枯れているものもありました。とにかく頑張って大きくなってほしいと願うばかりです。
写真左:キハダの新芽、写真右:折れたキハダの根元近くに小さな新芽
◎ヤマザクラ
ヤマザクラも多くが新芽を出していました。柔らかく、優しい雰囲気の葉がかわいらしいです。ヤマザクラは、極力、人が歩く道の近くに植えました。いずれ花が咲き、楽しんでいただける時が来ると良いと思います。
◎モミジ
モミジもほぼ全てが新芽を出していました。生え立ての芽は、色が赤みを帯び、下を向いていました。樹高はあまり高くなっていませんが、葉の数は多かったです。こちらも大きくなるのが楽しみです。
◎エンジュ
エンジュについては、何と、全て皮が食べられ、中の材がむき出しとなっていました。幹の一部ではなく、根の近くから枝の先まで、全て食べられていました。このため、エンジュについては、大変残念ながら新芽を出しているものが一本しかありませんでした。エンジュだけが選ばれ、皮が食べられていたことが驚きです。専門家の方に写真を見ていただき伺うと、猿ではないかということでした。別途現場にお越しいただき確認いただきたいと思います。
◎エゴノキ
エゴノキは、小さく丸みを帯びたかわいらしい緑色の葉を沢山出していました。ほぼ全てについて葉が出ていました。エゴノキは、和傘の柄に使われますが、中々採れなくなっていると聞いたため、植樹しました。将来和傘に使うのであれば、真っ直ぐ育ってもらった方が良いですが、中々そうもいかないようです。しかし元気に大きくなってくれていることが何よりのことと思います。
ほぼ全ての木が、新芽を出し、大きくなっていました。活き活きと大きくなってくれていることが、大変うれしいことです。
ベンチの設置
キハダ植樹地は、鳥居峠の石畳のすぐ下、原町稲荷宮の隣にあります。登山道の入口であることから、これから登る方は、よしっと気合を入れ、下りてこられる方はほっと一息される場所と思います。ここで服装や靴を直し、水分をとり、息を整えていただきたいと考え、木製のベンチを設置することとしました。鳥居峠にお越しの折には、是非ベンチをご利用いただけましたら幸いです。お時間のある方は、ベンチに座って辺りの景色を見渡しながら、ゆっくりお休みいただき、ご興味がありましたら是非キハダを含む木々の生育状況をご覧くださいませ。各木々の横にはリボンのついた竹棒を差しています。リボンのないもの、または、黄色のリボンがついたものは長野県産のキハダ、白のリボンは北海道産のキハダ、青はヤマザクラ、オレンジはモミジ、赤はエンジュ、緑はエゴノキです。
今年の植樹について
今年も5月に植樹を行います。当初植樹を検討していた場所は、天然更新のキハダが多く生育していることが判明したため、キハダの天然林とすることとしました。今年の植樹も、昨年の植樹地から徒歩5分程度の、鳥居峠のふもとで行うこととなりました。大変美しく素晴らしい土地であり、心から感謝しています。今年もキハダのみならず、それ以外の樹種も植樹し、混交林の森づくりを目指します。
先日伊勢神宮へ参拝させていただく機会がありました。参拝中に拝見させていただいた伊勢神宮の森は、大変美しく見とれてしまうような、素晴らしい森でした。伊勢神宮の宮域林においては、水源涵養、神宮境内の風致増進、式年遷宮に必要な御造営用材となるヒノキの育成を行っていらっしゃるということです。ヒノキの育成においては、「造林地に侵入する広葉樹もともに育成し、針広混交林を仕立て、森林生態系の調和を図っている」ということです。ここには、日本でも最高峰の考え方、長年の知識・経験に基づく技術が取り込まれているものと思います。到底足下にも及ぶものではありませんが、それを高い目標として弊社もできることに取り組みたい、との思いを改めて強くしました。木祖村は木曽川の源流の村です。未来の世代の方々が、この森があって良かったと思っていただけるような美しい森、水源涵養を含む様々な恩恵をもたらす森を継承することを目指し、取り組んでまいりたいと思います。
日野製薬株式会社
代表取締役社長 石黒和佳子
出典:式年遷宮記念せんぐう館「特集三 式年遷宮は続く 第一回 森そして山の営み」