薬草の花
トチバニンジン(栃葉人参)【6月】

※トチバニンジンの花期は6月~7月です。
肥大した根茎、胃や解熱に効果
(写真①:初夏、茎の先端に小さな散形花序をつくり、淡黄緑色の小花が咲く)
晩夏の深山を歩いていると、あまり日が差さない林床で、数個の赤い実をつけたトチバニンジンを目にすることがある。一方、初夏に咲く花は目立たないので、よほど注意していなければ気づかずに通り過ぎてしまう。輪生する葉の形がトチノキの葉に似ているため、こう名付けられた。ニンジンといってもセリ科の野菜のニンジンとは別物で、ウコギ科の草本である。
在来種のトチバニンジンは後述するオタネ(チョウセン) ニンジン (生薬「人参(にんじん)」)の近縁種である。根茎は肥大して節くれ立つが、根茎から出る不定根は肥大しない。生薬名は「竹節(ちくせつ)人参」で、健胃、鎮咳、去痰、解熱薬として消化不良、食欲不振、気管支炎に使われる。ニンジンの代用とされるが、強壮、強精作用はない。成分はオレアノール酸とその配糖体であるサポニン類である。
(写真②:夏、径5ミリほどの赤い実をまとめてつける)
一方、漢方薬でよく使われる「人参」は中国東北部原産のオタネ (チョウセン) ニンジンの根茎と根である。トチバニンジンに含まれる成分のほかに、独特のトリテルペノイドサポニン、インシュリン作用を持つポリペプタイドほか多くの成分を含む。オタネニンジンは、県内でも東信地方で広く栽培され、昔から重要な漢方薬として珍重されてきた。人参は使用部位や製造方法により、水参、生干人参、御種人参、白参、紅参、参精がある。人参は単独で、あるいはさまざまな生薬と配合され幅広く使われ、生薬として重要である。さらに野生種の二十年以上のもので、 ひげ根をつけたまま加工した「野山参(やさんじん)」などは、中国では貴重品として扱われる。
panax japonicus ウコギ科トチバニンジン属
別名●チクセツニンジン 生薬名●竹節人参
【ミニ図鑑】オタネニンジンの栽培には年月がかかり、最高品質のものは六年根
▶花期 6月~7月
(写真③:近緑種のオタネニンジン。東信地方でおもに栽培される)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)