薬草の花
センブリ(千振)【10月】
星のような花姿、食欲増進の効用
センプリ(千振)とは、千回振り出し(煎じ)ても、まだ苦いというたとえからである。薬局から買ってきたセンプリ(乾燥した枝葉・花)を小さな土瓶で煎じて飲んでみた。「苦い・・・、」とてもひとロで飲み込めるものではない。薬草としてよく知られる植物だが、自然の中で咲く花も意外に美しい。白色の小さな花は夜空の星を連想させるような五弁花である。全体に地味な印象だが、一本の茎にたくさん花がつくため、華やかな印象をもつ。切り花として、一輪差しにさしたくなる。(右の写真)
生薬名は【当薬】
生薬名は「当薬(とうやく)」で、「当(まさ)に薬である」との意味である。この名は本来は当薬竜胆(とうやくりんどう)につけられていたと思われる。明治時代にセンプリがその代用品として医薬品の規格基準書「日本薬局方」に載った。
【トウヤクリンドウ】
センプリを始めとするリンドウ科の植物に含まれる苦味配糖体を総称して、ゲンチオピクリンと呼ぶ。苦味を感じる私たちの味蕾(みらい)は舌根部にあり、苦味の刺激は反射的に唾液、胃液、膵液、胆汁などの消化液の分泌を亢進させ、ひいては食欲を増進する。
普通に見られたセンブリ
センプリは、十年ほど前までは県下の山野に普通にみられたという。しかし、開発のためか採取によるものか、近年ほとんど姿を消してしまった。だが、日当たりのよい草地を好むのだろう。最近私はスキー場で見事な株を見つけた。ゲレンデは秋に刈り払われるため、翌年の夏まで日がよく当たる。そして、冬場は競技スキーで雪を固めるために、硫安(硫酸アンモニウム)を大量にまくので富栄養化が進む。そんな状況下で肥大したセンプリを見るのは複雑な気持ちであった。
【タカネセンブリ】
Swertia japonica リンドウ科センプリ属 別名●イシャダオシ、トウヤク 生薬名●当薬
【ミニ図鑑】古くから薬用に用いられてきた日本特産の二年草
▼花期 八~十一月
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)