薬食同次元
キハダの実の食べ方色々
木曽にも盛夏が訪れています。緑が青々と生い茂り、空は青く、入道雲が浮かび、暑い日差しが照り付けています。山はこんもりとして、ぱちぱちと音を立てるように元気で勢いのある木々の様子に、心も弾みます。
御嶽山では、夏山の登拝に多くの方々がお見えになっています。昨年は、雨が多く、噴火に伴う入山規制や新型コロナウイルスの影響もあり、静かな夏山でした。今年は、黒沢口から剣ヶ峰頂上への登山道に加え、王滝口から王滝頂上までの登山道も登ることができるようになり、天候も安定しているためか、昨年よりお参りに来られる方が多いように感じます。「お山がきれいで良かった」「ご来光が美しかった」「やっぱり御嶽山は良いね」との弾んだお声をお聴きし、清々しい安堵のご表情で下山されるお客様とお話しさせていただく機会が増え、御嶽山麓の店舗で皆様をお迎えする私どもにとってもうれしい限りです。お客様とのお話を通して、元気をいただき、またお山の麓で仕事をさせていただくことの有難さを感じます。
さて、8月は「キハダの実」についてお話したいと思います。キハダはミカン科の落葉高木で、百草、百草丸の主成分の生薬オウバクです。
キハダには、雌の木と雄の木があることをご存知でしょうか?一つの木に雌花のみ、または雄花のみしか咲きません。これを「雌雄異株(しゆういしゅ)」と言います。よってキハダの実がなるのは、雌の木のみです。※弊社本社のキハダの雌花と雄花の観察記録はこちらをご参照。更に、キハダは「隔年結実(かくねんけつじつ)」の傾向を示すと言われています。果樹の結実が多い時と極めて少ない時を1年毎に繰り返す現象のことで、2年に1度程度しか実がならないということです。今年は、有り難いことに実がなる年です。本社のキハダにもたわわに実がなっています。これをよく観察し、様々な検証をしようと考えています。
本社のキハダの実(2021年7月6日撮影)
6月にキハダの皮むきをした際、雌の木には実がなっていました。山椒のような緑色の実です。まだまだ小さな実でしたが、枝ごと持ち帰って水がめにさしておいたところ、葉が翌日にはしおれはじめました。水から出し、実を枝から切り落とすと、何と数時間後には胡椒のような黒色に変わりました。木になっているキハダの実は、冬が訪れると黒くなります。この状態が、すぐに出現したことに驚きました。木祖村では、冬にキハダの実を採り、キハダ餅などにして食べる昔ながらの習慣があります。冬の実ではありませんが、もしかして食べられるのでは??と思い立ち、試してみることにしました。
●生で食べる
まずは生でそのままかんでみました。最初は少しの苦みを感じましたが、その後、山椒のようにピリリとした辛さを感じました。もしかして山椒より辛いかもしれません。舌のピリピリ感は、その後数時間持続しました。しかし、柑橘系のさわやかな香りがして何かとても良い感じです。山椒と陳皮を混ぜ合わせたような、独特の香りと味わいがしました。
乾燥したキハダの実(2021年6月30日に採取した実)
●「ちりめんキハダ」を作る
生で食べた時の感じから、ちりめん山椒ならぬ「ちりめんキハダ」を作ってはどうか?と考え作ってみることにしました。あくを抜いた方が良いかもしれない、と同僚からアドバイスをもらい、一晩あくぬきをしてから作りました。
1. キハダの実を熱湯で1分ほど湯がく
2. ざるにあけて冷ます
3. 水につけて、一晩おく ⇒朝起きると水がうっすら黄色くなっていました。
4. 乾燥しらすをフライパンで炒る
5. しょうゆ、みりん、水を1:1:1の割合で加える
6. キハダの実を加えて、煮詰めて水分を飛ばして、出来上がり
食べてみると、ちりめん山椒と似た味わいですが、より柑橘系の香りがして大変美味しいです。あくを抜いたことにより、ピリピリ感が抑えられ、良いご飯のおともになりました。
ちりめんキハダ
●「キハダの実のオイル漬け」を作る
柑橘系の良い香りを何とか活かしたい、と考えていたところ、オイル漬けが良いのではとのアドバイスをいただき、オリーブオイルに漬けてみることにしました。
1. キハダの実を洗って、ペーパータオルで乾燥する
2. 瓶にキハダの実を入れてオリーブオイルを注ぐ
3. 瓶にアルミホイルをまいて冷暗所で保管する
数日後には、さわやかなすっきりとした香りのするオイルが出来上がりました。野菜サラダにかけてみると大変美味でした。実が緑色の間に漬けると、より香りが強くなり、実そのものも生で食べられるかもしれません。次回以降は試してみたいと思います。
キハダの実のオイル漬け
●「ぬか漬け」に入れる
山椒の実はぬか漬けに入れると良いと聞きます。山椒の実は、ぬか床の菌の増殖を抑えるとのことです。生薬オウバクにも抗菌作用があると言われており、我が家のぬか床に入れてみました。すると、やはり独得のさわやかな良い香りがして、ぬか床が「しまった」ような気がしました。温度も湿度も高くなってきた今の時期には良い効果をもたらしているように感じます。ぬか漬けの味そのものは、少し深味が増したような気がしますが、これはキハダの実とは関係ないかもしれません。
ぬか漬けに入れたキハダの実
色々試してみた結果、若い実でも、美味しく食べられ、また活用できることが分かりました。今後も、キハダの皮むきの際に、実が採れるようであれば、採ってきて他のレシピも試してみたいと思います。生薬原料となる内皮部分だけでなく、他の部分も活用できるようになりたい、というのが目標です。
なお、今回の若いキハダの実を、木祖村のキハダ餅づくりの名人の方のところへ持って行き、これでキハダ餅が作れますか?と聞いてみたところ、ちょっと辛すぎるなぁというお答えでした。冬のキハダの実はもっと甘い、こんなにピリピリしないよ、とのことです。更には、キハダには甘い実がなる木と、辛い実がなる木がある、甘い実は野鳥が好んで食べるからすぐわかるよ、とのこと。弊社の本社のキハダの実は、甘いのか辛いのか、まだ誰も食べてみたことがないので分かりません。冬が訪れたら採取し、食べてみるのが楽しみです。今年の冬にはキハダ餅をつくり、また当ブログでご紹介したいと思います。