薬食同次元
ベルベリンのつながる力
全国から桜の便りが聞かれるようになりました。木曽でも気温がぐんと上がり日中は大変過ごしやすくなりました。しかし4月初めの木曽は、ようやく梅の花が咲きそろう頃です。桜の開花にはもうあと2、3週間かかると思います。まだ寒さの残る野山には、ふきのとうが顔を出し、先日本社の裏山から今年初めてキジの鳴き声が聞こえてきました。春は少しずつ確実に訪れています。
百草、百草丸の主原料はキハダの周皮を除いた樹皮である生薬オウバクを煮出して煮詰めたオウバクエキスです。オウバクの有効成分である「ベルベリン」についてお話したいと思います。
ベルベリンについて
ベルベリン(ベルベリン塩化物(C20H18ClNO4:371.81))は、オウバクに含まれる成分の一つです。オウバクには、ベルベリン、パルマチン、フェロデンドロン、マグノフロリン、ジャトロリジンなど様々な有機物、無機物が含まれています。ベルベリンはこれらの中でも代表的なオウバクの成分で、薬理作用を示します。日本薬局方においても、オウバクの品質を確認するための試験方法としてベルベリンの定量(含有量の測定)が求められています。ベルベリンはアルカロイドの一種であり、以前の生薬ブログ「オウバクエキスとベルベリン」でもご紹介の通り、その薬理作用は、非常に多岐にわたります。
ベルベリンの薬理作用
1. 胃腸機能の促進作用
2. 病原菌に対する抗菌作用
3. コレラや細菌性腸炎の下痢止め
4. 血圧降下作用
5. 中枢神経抑制作用
6. アセチルコリン抑制作用
7. 抗炎症作用
8. 抗腫瘍作用
9. 抗アミン作用・抗ヘパリン作用
ベルベリンのつながる力
さて先日、信州大学農学部の機能分子設計学研究室の助教 梅澤公二先生より、ご研究内容についてお話を伺う大変貴重な機会をいただきました。分子の構造と機能を解明し、予測、発展につなげるご研究に長年に亘り取り組まれご活躍されています。分子シミュレーションやデータベース解析を通し、創薬にも寄与する学問分野とのことで、非常に高度なご研究内容に驚くばかりでした。分子と分子は結合することで機能を発揮すること、この時、分子の構造とその安定性が重要なカギになるとのことでした。
そのご説明の中で、ベルベリンを研究に用いられているとのお話がありました。ベルベリンを加えるか否かで、ある構造がより安定した状態となり、その構造が発揮する特定の機能の解明につながるそうです。私どもが日頃の百草・百草丸づくりで親しむベルベリンがそのような役割を果たすことに驚くとともに、数ある化合物の中で、なぜベルベリンを選ばれたのか不思議に思いました。
すると先生が「ベルベリンはつながりやすく、色々なものに結合できるのが特長なのですよ」とお話してくださいました。つながりやすさ、そして他の分子の構造を安定させることから、ベルベリンは重宝されているようです。ではなぜベルベリンはつながりやすいのか?第一に構造が平面的であること、第二にベルベリンに含まれる窒素原子はプラスの電荷を帯びていることからマイナスの電荷を帯びたものとの結合ポイントになりやすいとのことでした。
このお話をお聞きし、改めてベルベリンの奥深さに驚きを覚えました。上記の通り、ベルベリンには多くの薬理作用があります。もしかすると、分子レベルでのつながりやすさが影響しているのでは、と思いました。ベルベリンを主成分とするオウバクを煮出して煮詰めて板状にした百草は、古くは「万病に効く腹薬」「腹痛の妙薬」とも呼ばれ、風邪、赤痢、皮膚病、外傷、眼病、口内炎など多岐にわたる病に用いられました。このマクロの世界の懐の深さ、幅広い特長は、もしかするとミクロの分子レベルでのつながりやすさという特長に一部関係するのかもしれない、と思うと興味は尽きません。
そして、視点が少し飛躍しますが、ベルベリンが有効成分の百草、百草丸を製造販売する私どもも、ベルベリンにあやかって、何かをつなぐ会社でありたいと思いました。様々な人やモノ、機会をつなぐ結合のポイントに位置し、積極的につながり、それを深めることで、新たな価値を創造していくことができる会社でありたいと思います。
折しも、先日のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で、日本代表が14年ぶりに優勝し、日本中が大きく盛り上がっています。この快挙を実現したのは、個々の選手の素晴らしい才能や技術、経験もさることながら、多様な個性を持つ選手たちが、互いにつながり、強いチームワークで支えあったことが、相乗効果を生み出し、大きな力につながったと聞いています。大きな感動をもたらしてくれた日本代表チーム、そして私どもにとって大切なベルベリンに共通する「つながる力」に学び、より良い薬づくり、そして多くの方々のご健康長寿に寄与するため、励んでいきたいと思います。