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生薬の話

オウバクエキスとベルベリン

木祖村 すすき

 夏から秋に移り変わろうとするこの季節、ススキが風になびき、うろこ雲が空に浮かび、戸外は木曽ならではの涼やかな初秋の風情につつまれています。


 さて、エンゴサク末を配合した「日野百草丸」の発売から一年。当社が初めて丸剤を製造したのは昭和30年代の初めで、その時の配合生薬は、主薬のオウバクエキスにゲンノショウコ末、ビャクジュツ末でした。その後、ガジュツ末、リュウタン 末、センブリ末を加え、現在は、さらに新しくエンゴサク末を加えて七種類の生薬で構成した現代人のための丸剤として製造販売をしています。
 丸剤は、中国の古い書物に「丸は穏やかなり」とありますが、その吸収が緩慢で薬効が持久するのが特長です。中国の金元医学の四大家の一人、李東垣(りとうえん:1180~1251年)は、人が病気になる原因は「消化器系が弱まったためで、胃腸を元気にすることが、病気にならない身体をつくる」と提唱したとあります。
新しい「日野百草丸」は、健胃・整腸・粘膜修復の働きもつ生薬をバランスよく 配合することで総合的あるいは相乗的に作用し、また、作用機序の異なる生薬を共存させることで穏やかな作用とし、胃腸の調子を整えるようにしています。

オウバクエキスとベルベリン

 キハダの内皮を熱水で煮出し煮詰めたオウバクエキスには、無機物や有機物が多く含まれています。その薬効は有機化合物であるアルカロイド(窒素原子を含み、塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称)、苦味質、粘液質などの成分によるものですが、これらの成分の中でも特にアルカロイドのベルベリンが薬効の要となっています 。
日野百草丸」には七種類の生薬が配合されていますので他の生薬成分との相互作用もあり、一概にベルベリンの薬効のみが要とは断言できないのですが、やはり、これ までの多くの報告から、オウバクエキスの主成分であるベルベリンの薬理作用が主たる薬効であると考えられます。

ベルベリンの薬理作用

 報告されているベルベリンの薬理作用には、

  1. 胃腸機能の促進作用
  2. 病原菌に対する抗菌作用
  3. コレラや細菌性腸炎の下痢止め
  4. 血圧降下作用
  5. 中枢神経抑制作用
  6. アセチルコリン抑制作用
  7. 抗炎症作用
  8. 抗腫瘍作用
  9. 抗アミン作用・抗ヘパリン作用

と、非常に多くの作用があります。

苦味成分と粘液成分

 オウバクエキスにはアルカロイドの他に苦味成分のトリテルペン系のオバクノンとオバクラクトン(リモニン)が含まれています。この苦味成分は胆汁分泌や膵液分泌を促進します。粘液成分としてはリノール酸フィトステロールエステルが知られています。ここで大変興味深いのは、この粘液成分がベルベリンに対して相乗作用を発揮し、ベルベリンの作用を高める効果があると指摘されていることです。


 また、単に ベルベリンを主剤とした薬品よりも、オウバクから抽出して得たエキスの方が効果的であることも指摘されています。 未だ未解明なことが多いオウバクエキスですが、このオウバクエキスの中には種々の薬用成分が含まれ、相互に作用し、薬としての作用(主作用)を強めたり、副作用を弱めたりして調和を保っていることがうかがわれます。 これらの薬用成分の解明に積極的に取り組むのが当社の課題でもあると思います。
 

日野百草丸は現代人のための丸剤とのことですが、もう少し具体的に!

 近年の傾向として、胃腸の機能が低下した高齢者だけでなく、若い方々の中にも、検査をしても異常がないのに、慢性的に胃もたれ、胸やけ、膨満感、吐き気などが続く機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)に苦しんでいる方が多くなっています。本来は人間も自然界に生きる生物の仲間でありながら、社会があまりにも高度化し変化したために環境に順応できなくなり、身体の調和が保てなくなくなったことが原因の一つであるような気がしています。


 従来の百草丸の効能書に 「快食・快便・快眠が健康の三要素といわれています。この快食・快便は消化管が正しく働いているということです。いつもおなかの調子を整えておくことが何よりも健康への近道といえます。」 とあります。このおなかの調子を整えるためのお手伝いをするのが当社の役割であり、百草丸製造の目指すところであると思ってきました。やはり、百草丸の良さを活かし、さらに、より効果的な新しい百草丸を製品化して多くの方々にご愛用頂きたいと考え、消化管の粘膜を保護してくれるエンゴサク末を追加し、新しく「日野百草丸」を発売いたしました。


 古めかしい丸剤と躊躇される方もいらっしゃると思いますが、原料に加工処理を施さず、天然の原料そのものを丸ごと活かして製品化するのが丸剤です。機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)は、現代人が罹りやすく、軽度ではあっても日常生活に支障をきたす治りにくい病気です。「日野百草丸」は、機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)に無理なく働きかけ、胃腸の調子を整え、症状を改善し、身体を健康へと導いてくれます。

新しい「日野百草丸」は、胃腸を元気にしてくれる現代人のための胃腸薬です。


---(参考)-------------------------------------------
ネット日本大百科全書の解説 李東垣より
和薬胃腸の妙薬「助陀羅尼丸」伝承から科学まで(薬日新聞社 銭谷武平・伊直著)
第17改正日本薬局方解説書
漢方・生薬の謎を探る(NHK人間大学:難波恒雄富山医科薬科大学教授)


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