薬食同次元
キハダのつなぐご縁
例年より早い梅雨明けを迎えました。雨が降るたびに色濃さを増していた木曽谷の山々にも、暑さが訪れています。
さて、先日私どもが大変お世話になっている森林のプロフェッショナルの方々が、遠方より木曽までお越しくださいました。百草・百草丸の主成分である生薬オウバクは、ミカン科の落葉高木キハダです。良質なキハダを安定的に入手するための弊社の取り組みの中で出会いました皆様は、まさに「キハダのつなぐご縁」です。
キハダの皮むき
今回、様々な情報交換とともに、キハダの皮むきをご一緒に行いました。キハダは、木が最も水を吸い上げる6、7月の梅雨の時期が、皮むきに最も適しています。この時期は樹皮と木部の間の形成層が、盛んに分裂している時でもあり、細胞が柔らかく、簡単にむくことができます。それを是非体験いただきたいと従前より考えていました。
梅雨の合間の曇り空の日でした。木曽川ほとりの畑に生えていたキハダを、2日前に伐倒してありました。森林のプロフェッショナルの皆様とはいえ、梅雨時のキハダの皮むきは初めてとのことです。大変楽しみにしてくださっているご様子でした。
キハダの幹をチェーンソーで80cm程度の長さに切り、縦に筋目を入れて、皮むきを始めました。筋目のところから、樹皮と木部の間にぐっと道具を差し込むと、簡単にはがれました。そして見えたのが、黄色い、鮮やかな樹皮の内側です。
「わーこんなに黄色いの!?」と歓声が上がり、「簡単にむける!」「音が気持ちいい!」「ジューシー!」とあちこちから声が聞こえました。
私どもも、キハダの皮むきを行うたびに、黄色の鮮やかさに驚かされます。今回のキハダは本当に明るく、美しい黄色でした。この黄色を見られるのは、本当に特別なことです。むいたばかりのキハダは表面がつやつやし、黄色が最も鮮やかです。キハダの生命力、自然界にこのような黄色が存在することやその黄色い樹皮に薬効があることの不思議さ、そしてそれを使わせていただくことの有難さなどをひしひしと感じます。
伐倒から2日経過していましたが、道具を使わずとも、手ではがすことができるくらいの状態でした。そして、はがす時にシューっと音がしました。節などのある部分を除き、どんどん皮がむけていきました。樹皮の外側は、するっと自然にむけてしまいました。触るとぬるっとした感触がして、キハダ特有の粘性を感じました。皮は分厚く8mm程度あり、持つとずっしりとしていました。生命力があふれ出ているような力強さを感じました。
このキハダは、切株を数えると、樹齢29年でしたが、直径は34cmとかなり太い木でした。キハダは水分を好むとされていますが、生えていた場所は川沿いの畑の角であり、水の豊かな場所です。更に、畑の肥料が川に向かって流れ出て、キハダが吸い上げたかもしれないですね、と話しました。ぐんぐん大きく育ったキハダではないかと思います。
また、若い実がついていたことから、雌の木でした。実は冬鳥の貴重な食べ物になること、種が次の世代のキハダにつながることから、なるべく伐らないようにしています。今回管理のご都合などで、私どもにお譲りいただきました。伐るのであれば大切に余すところなく、と思います。キハダの大事な命をいただいたことを忘れないようにしたいと思います。
梅雨は簡単、冬は大変
さて、今回のキハダの皮むきは、1つの丸太に対し5~10分程度で終わりました。木部から黄色の皮をはがすのに5、6分、黄色の皮と外側の茶色い皮は自動的にするっとむけてしまうため、大変早いです。
しかし、冬のキハダの皮むきは、1つの丸太に対し2時間以上かかります。木部から黄色の皮をはがすだけで45分程度、その後黄色の皮から外側の茶色い皮を削り落とすのに、1時間半かかります。梅雨時と冬のキハダ皮むきを比較すると、時間の違いは10倍以上と歴然としています。やはり梅雨時に皮をむくのが最適ということが、弊社の検証でも判明しています。
このたびご参加いただいた皆様には、実は昨年、冬のキハダの皮むきを一緒に行っていただきました。その時、大変なご苦労をともにしていただいたからこそ、今回梅雨時の皮むきの簡単さ・早さに驚かれ、喜んでいただきました。そして大変楽しんでいただいたようです。幹が終わったら枝へ、といった具合に、黙々と懸命に作業をしていただきました。
今後に向けて
今回、キハダについて様々な意見交換をし、今後のキハダ植樹や管理にご協力いただくこととなりました。長い将来に亘り、良質なキハダを用いて薬づくりを行うため新たな一歩を踏み出したような気持ちです。キハダのつなぐご縁は本当に有難いものばかりです。遠い木曽までお越しいただき、私どもと時間を過ごしていただき、また未来の世代に渡すバトンであるキハダの森づくりにご協力いただきますこと、心より感謝しています。