薬食同次元
キハダの種
木曽に芽吹きの時が訪れています。木々の色合いが徐々に明るい緑色となり、山桜が点々と見える様は、大変美しく心も弾むような気持ちがします。たらの芽、こしあぶら、行者にんにくと、様々な山菜が出始めました。昨日は山の斜面でたらの芽を、今日はひのき林に入ってこしあぶらを、と山菜採りをしては、天ぷらやお浸しにして春の味を楽しんでいます。本社のキハダも新しい芽が出始めました。
さて、弊社では今年もキハダの植樹を行います。今年は二回行う予定です。一回目は昨年と同じ山の急斜面に植樹します。二回目は木祖の小学生と一緒に体験学習会を行います。いずれも5月の後半です。今から大変楽しみにしています。
今年植樹するキハダの苗木を見せていただくため、先日育苗家の方のところへ訪問しました。昨年畑に種をまき、大きく育てた苗木を、芽が出てこないように冷蔵庫で保管されていました。昔は「風穴」を利用されていたこともあるそうですが、今は冷蔵庫を用いられています。大変立派な苗木でうれしく思いました。今年は「大」と「中」の大きさの苗木をいただく予定です。植樹の前日に冷蔵庫から出していただき、翌日には山に植えます。冷蔵庫で休眠しているところを、一気に土に植えて目覚めるのを待つ、ということです。無事に根がはり、芽が出て大きくなりますように願うばかりです。
この訪問の際に、キハダの種も見せていただきました。昨年の10月から12月にかけて、本社のキハダの実を採取してお預けし、種の取り出しをお願いしていました。キハダは隔年結実で2年に1回程度、実をつけると言われています。昨年は「生り年」で、本社のキハダは、沢山の実をつけました。社員皆で、道路に落ちた実を拾い、梯子をかけて高枝ばさみで切り落とし、風通しの良い所に保管し乾燥しました。どれだけ種が取れるか、大変楽しみにしていました。
種を出していただくと、本社入口の樹齢45年程度のキハダからは沢山の種が、本社裏手の樹齢が分からないほど古い大木のキハダからは少量の種が取れたことが分かりました。ここでの種とはいわゆる「芽が出る種」のことです。キハダの実には5つの子房があり、種は5つ入っています。しかし5つの中には芽が出るものとそうではないものが含まれています。全ての種の中から「芽が出る種」のみを選別する古くからの専門の技術をお持ちです。冬の寒い間に作業をしていただき、種をより分け、芽が出る種を取り出していただきました。本当に有難く思いました。今回の種の量であれば2, 3年分になるそうです。
育苗家の方に「この種はほぼ全部芽が出るよ、ただ(その後は)私らの経験だと、種というより畑の状態によって差が出る」と教えていただきました。芽は100%に近いほど出るそうですが、大きく育つか否かは、畑の苗木の面倒をいかに良く見るかに依存しているということです。それは木の顔を見ながら考えるのだ、ということを以前教えていただきました。「私らの世界はカンの世界だからね。教科書はない。基本の技術は教わるがね。あとはやってみる。まずは種を一反歩まいちゃう。そしたら芽が出て来るから、もう自分たちで工夫するしかない。」「目検討でやるからね。だから何度も失敗しているよ。」とお話していただきました。自然のものに対する真摯な姿勢に感銘を受けました。理論だけではなく、よく見て五感を使って感じ取ること、感じたことを形にする力が大変重要なのだということを教えていただきました。自然の営みの中で人間は生かされていることを改めて感じたように思います。
今回採取いただいたキハダの種は、今年畑にまいて苗木に育てていただく予定です。そして来年には山に植樹したいと考えています。本社のキハダの種が新たに芽を出し山で成長していきます。まさに命が循環していきます。山に植えたキハダについて、人間が出来ることは草刈り程度で、ほぼ無いことをこの一年で感じています。しかし手塩にかけて育てていただいた苗木を大切に植樹し、大事に見守っていきたいと考えています。
最後に大変余談ですが、本社入口のキハダは、実が甘くておいしいことが分かっています。野鳥のつぐみも、この冬は雪が多く地上に食べ物が見つからなかったためか、沢山食べに来ました。このキハダの種から育った苗木は、やがておいしい実をつけるのでしょうか?それも楽しみです。実が生るのは恐らく10年~20年後です。それを見届けるまで、健康で生きていなくてはならないと思っています。
<今年取り出していただいたキハダの種>
黒い粒がキハダの種です。黄土色の皮は種の周皮です。もみ殻に似ています。