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薬食同次元

ぬか漬けは生きている

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折しもの大雨も止み、木曽にも穏やかな日々が訪れています。お盆を過ぎた頃から木々は少しずつ黄色くなり、赤とんぼが飛び、少しずつ秋の風情を感じるようになりました。朝晩は涼しく気温が20度を下回ります。御嶽山を登拝される方々も徐々に減り、一時は賑わいを見せていた御嶽山麓の店舗も静けさを増しています。9月3日には御嶽山の剣ヶ峰頂上、王滝頂上で閉山祭が斎行されます。店舗へ訪れていただいた方々に感謝し、間もなく夏山シーズンが終わりを迎えます。

  

さて、食欲の秋が近づいています。ぬか漬けのお話をしたいと思います。

ぬか漬けといえば日本の伝統食。古くから伝わる発酵食品です。今年からぬか漬けを始めました。ぬか床の管理など本当にできるのだろうか?と半信半疑でしたが、中々奥深く、今は楽しくお付き合いをしています。これまでに漬けたのは、きゅうり、なす、人参、かぶ、大根、瓜など。よく「ぬか床は生きている」と言われますが、それを実感する日々です。漬けるもの、気温や湿度、手入れの具合によって毎日味、香り、手触りが変化していきます。そしてぬか床は一つの生態系とも言われます。確かに生きているものと対峙している感覚があります。

  

毎日の食卓を豊かにしてくれるぬか漬け。改めてどのようなものなのか調べてみました。

  


ぬか漬けとは


■そもそも発酵食品とは?

発酵食品とは、「食材を微生物の働きによって発酵させて製造する食品」を示します。発酵には主に「カビ」「酵母菌」「細菌」の3種類の微生物が関わります。これらの微生物の働きによって「有機物が分解され、特定の物質が生成される現象」が発酵です。発酵により食物は旨味を増し、栄養価を増し、更に保存性が高まります。

なお、微生物は「発酵」の他に「腐敗」も行いますが、この二つの働きに大きな違いはないそうです。人間にとって有益な変化が食物にもたらされるか否かが呼び名の違いとのことです。

発酵食品の代表的なものには、ぬか漬け、味噌、醤油、みりん、日本酒、酢、チーズ、ヨーグルトなどがあります。和食の基本的な調味料の「さしすせそ」は、砂糖(広義ではみりん・酒を含む)、塩、酢、醤油、味噌です。「さしすせそ」の多くが発酵食品ということですね。日本人は古くから発酵食品を日々の暮らしにうまく取り入れて来たと言えると思います。

  

■ぬか漬けとは?

では、改めてぬか漬けとは何でしょうか?ぬか漬けは「糠(ぬか)に塩をまぜたものに野菜や魚を漬けたもの」です。漬物そのものは、今から2000年以上前の古墳時代にはあったとされています。当時は塩に野菜を漬けるシンプルなものでした。

平安時代中期に編纂された法典「延喜式(えんぎしき)」には公事や年中行事についての記述があり、その中に「須須保利(すずほり)」という漬物が登場します。穀類や大豆を臼で挽き、塩を加えて漬け床にし、野菜を漬け込んだものとのことです。これがぬか漬けの原型ではないかと考えられています。

一方、米のぬかが漬物に用いられ始めた時期は、実は明らかではありません。しかし江戸時代に入ると庶民の間に、白米を食べる習慣が広がったため、この頃ではないかと言われています。江戸時代はビタミンB1不足による「脚気」が流行り病の一つでした。ぬか漬けはビタミンB1が豊富であり、一種のブームのように広がりを見せたと言われています。

たくあんは干した大根のぬか漬ですが、これを考案、または広めたとされる沢庵宗彭(たくあんそうほう)和尚は、安土桃山時代から江戸時代前期に活躍した臨済宗の僧侶です。このことからも江戸時代付近にはぬか漬けが食べられていたと考えられます。

  

■ぬか床の中には何が含まれるか?

ぬか床は、米のぬか、塩、水が主な材料です。ぬかを炒り、沸騰したお湯に塩を煮溶かして冷ましたものを加え、全体を均等に混ぜるのみでぬか床のベースが出来ます。ここに、防腐と味の引き締めのための唐辛子や山椒、旨味のための昆布などを加えます。そしてぬか床の発酵を促し適度な水分を補充するため、捨て漬け野菜を入れて、2週間ほど朝、晩にかき混ぜると、美味しいぬか床となります。

ぬか床には、微生物として、産膜酵母菌、乳酸菌、酪酸菌などが住んでいます。

・産膜酵母菌:酵母菌の一種で、空気を好み、ぬか床の表面に生息。梅干しの表面や昔ながらの醤油の表面にも生息。乳酸菌と共生関係にあり増殖を助ける。ぬか床に増え過ぎるとシンナー臭をもたらす。

・乳酸菌:糖から乳酸を作り出す菌の総称で、空気を好まず、ぬか床の真ん中に生育。人の腸内を酸性にし、腸のぜん動運動を助ける。ぬか漬け特有の酸味をもたらす。

・酪酸菌:酪酸を作り出す菌で、空気を好まず、ぬか床の底に生息。大腸のエネルギー源として、正常な働きはたらきを支え、長寿の人の腸に多く生息することで昨今注目を集めている。一方、ぬか床内で増えすぎると、むれた靴下のようなくさい臭いの元となる。

これらの菌のバランスが崩れて、いずれかの菌が増えすぎると、味が損ねられたり、嫌な臭いが発生します。ぬか床を混ぜること、そして適度な塩の量を保つことなどにより、菌の過剰な繁殖を防ぐことができます。また、ぬか床には、混ぜる人の皮膚に住む常在菌も生きていると言われています。常在菌は人の身体に雑菌が繁殖しないようにバランスを保つ役割があり、ぬか床の中でも同様の役割を果たします。ぬか漬けの味が各家庭によって異なるのは、これが理由とも言われます。まさに一つの生態系です。

  

●ぬか漬けは何が良いのか?

栄養価を増す

ぬかは「玄米などを精白する際に果皮・種皮などが破けて粉になったもの」です。白米とする際に削り落されてしまう部分ですが、ビタミンB、ミネラル、たんぱく質、脂質などを豊富に含んでいます。ビタミンBやミネラルは汗によって排出されやすく、特に暑い時期には不足しがちな栄養素です。エネルギーを作るビタミンB、臓器や細胞をサポートするミネラル、筋肉や臓器、ホルモン、免疫物質などを作り栄養素を運搬するたんぱく質は、健康な身体の維持に欠かすことはできません。なお、ぬか漬けにすると野菜のビタミンBは生と比較して4~10倍にも増えるとされています。例えば、きゅうりの場合は5倍もビタミンBが増えるそうです。

  

旨味を増す

ぬか漬けには漬け込む野菜や海藻類などから出た旨味がたっぷり含まれています。

  

腸を整える

前述の通り、ぬか漬けには乳酸菌や酪酸菌などが豊富に含まれます。これらの微生物は腸の働きを助け、整えます。

  

保存性を高める

新鮮な野菜を長く保存するために役立ちます。発酵に関わる微生物が、腐敗を防ぎ、発酵食品であるぬか漬けの保存性を高めます。

  

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ぬか漬けを作ってみて考えること


さて、ここまでぬか漬けとは?についてお話して参りました。ここからは、我が家のぬか漬けのお話です。

  

長年にわたり本当にぬか漬けができるのか逡巡していた挙句、今年になって一念発起してぬか漬けを始めることとしましたので、なるべく昔ながらの手順で行ってみようと考えました。琺瑯(ほうろう)の容器を取り寄せ、米屋さんで米ぬかを買い、粗塩を準備し、ぬか床の仕込みを行いました。捨て漬け期間を終えて、初めて恐る恐るきゅうりを取り出して食べてみた時、思いの外の美味しく大変感激しました。

    

ぬか漬けを始めて、ぬか床は生きていることを実感するようになりました。ぬか床は上記の通り、産膜酵母菌、乳酸菌、酪酸菌など様々な微生物が生育しているそうですが、毎日様子が異なります。香り、味、手触りなど、日々変化していきます。

  

捨て漬けの期間に、一度だけ、朝間に合わず、かき混ぜずに出勤したことがありました。夜帰ると家中が納豆臭くてびっくり!納豆好きの夫も臭いねというほどです。あわててインターネットで調べると、酪酸菌が増えすぎている!?これはいかん!と一度全てのぬかを容器から取り出して空気を入れ、更に念の為、生姜をスライスして漬け込みました。すると翌朝には匂いが改善し、その朝しっかりかき混ぜて出かけると、夜には落ち着いていました。その後、香ばしい良い香りがしてくるようになりました。

  

別の日。夜かき混ぜずに寝てしまうと、翌朝表面に一面の白いものが出ていました。もしかしてカビ!?とあわててインターネットで調べると、酸素を好む産膜酵母菌のようです。産膜酵母菌は発酵が進んでいることを示し、ぬか床が美味しくなる前兆とのことです。混ぜ込んでも良いとのことで、そのまま混ぜ込むと、更に美味しさと風味が増したぬか床となりました。

  

また、夏の暑さが厳しくなり、ぬか床を初めて冷蔵庫に保管した時のこと。冷蔵庫から取り出すとふたに細かい水滴がついていました。ふたをあけると何か静かな感じ。香りもしません。何かチーンと眠っているような感じを受けました。かき混ぜて空気を含ませると、ようやく香りがするようになり、ぬか床もふぅっと息をついたように見えました。

  

様々な菌が絶妙なバランスで生きていて、外部の温度や湿度、空気の有無、水分の有無などによって、増えたり減ったりし、漬け込む野菜や海藻類の種類によって、味や香りに変化が生じます。かき混ぜなければ相応に反応し、良く面倒を見ていると程よい状態を保ちます。

  

生薬を用いた薬づくりと似通ったものを感じました。生薬は自然の産物のため、温度や湿度などの外的環境によって状態が変わります。また採取の時期や産地によって有効成分の含有量などの特性も異なります。その一定ではない自然のものを用いて、安定した品質の薬をつくり出すことが私どもの仕事です。これは大変なことですが、まさに生薬製剤づくりで一番大切なこと、そして醍醐味でもあります。生薬の状態をよく見て、細かな調整を繰り返しながら、一つの製品に仕上げていきます。このため百草丸や普導丸の一粒、一粒に愛着がわき、大切にしなくてはと思います。そして熟練の人の経験や知恵が不可欠でもあります。

  

ぬか床を何十年も維持している人がいると聞きます。毎日、毎日ぬか床に向き合い、話しかけ、ぬか床の話を聞きながら試行錯誤を繰り返していかないと、数十年もの歳月、美味しいぬか床を保つことは出来ないと思います。

  

私どもも、生薬のことをよく知り、よく観察し、話を聞き、話しかけながら、試行錯誤を繰り返し、良い薬を作っていきたいと思います。命ある大切な生薬を用いて薬づくりを行うものにとって、自然の恵みへの真摯な姿勢、その良さを活かして薬とするための研究の積み重ねこそ、なくてはならないものだと思います。

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参考:

デジタル大辞泉

「こころ×カラダ「つなげる、やさしさ。」健康応援サイト」

京つけもの西利 「読む西利」

「糠床のミクロフローラと乳酸菌の共生」(著者:阪本直茂・中山二郎)

公益財団法人 腸内細菌学会 「よくある質問」

アリナミン製薬株式会社 「酪酸菌大百科」


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