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薬食同次元

夏山を振り返って

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 台風10号の猛威が続いています。被害を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。また台風の進路が定まりませんがどうぞお気をつけてお過ごしくださいますようお願いいたします。

  

 御嶽山の夏山も終盤を迎えております。毎年7月から9月上旬頃まで、多くの方々が夏山の登拝、登山のため木曽へお越しになります。弊社の御嶽山麓の直営店舗である日野百草本舗王滝店、日野百草本舗里宮店では、古くから御嶽山に登拝、登山される方々にお立ち寄りいただき、おくつろぎいただきながらお買い物をお楽しみいただいてまいりました。今年も多くの方々にご来店いただきましたこと、心より御礼申し上げます。

 お山に登られる前に「行ってくるよ、また後で寄るから」のお言葉とともにご出発されるお客様、そして無事に下山され清々しくホッとした笑顔で「今年も来られて良かった」とお話いただくお客様をお迎えすることは、私どもにとって何よりもの喜びであり、お山の麓でお店をさせていただくことへの感謝の気持ちで一杯になります。

  

 今年の夏山においても、お客様より心に残る多くのお言葉をいただき、忘れ難き時を皆様とご一緒に過ごさせていただきました。その中でも大変印象に残っているお客様のことがあります。

 

 今年で88歳になられた女性の先達(せんだつ)の方がいらっしゃいます。先達とは修験道において他の修行者を導く人のことです。御嶽山は古来より霊山として人々の信仰を集めてきました。江戸時代に開山されて以降、全国より御嶽山を登拝する方が木曽の地へ訪れるようになりました。これらの方々は講(こう)または講社(こうしゃ)という団体を組み、登拝されます。御嶽山は現代においても講の方々が登拝されるお山です。先達の先生方は講を率いてお山に登拝されます。

 

 この先生は、毎年、2泊3日で夏山を登拝されます。1日目はお参りをされながら頂上またはそのすぐ下の二ノ池まで登られ、2日目はご自身で建立されたお社を目指し五ノ池、四ノ池の方まで端から端まで巡られながらお参りをし、3日目は三ノ池でお参りをされて下って来られます。青年・壮年であっても身体に負担のかかる道のりを毎年登拝されてきました。そして登られる前、下って来られた後に、弊社の店舗へお立ち寄りくださいます。

   

 いつもお元気で「来たよー!」と明るい笑顔でお越しになります。そしてどなたよりも早く歩かれて店舗前の御嶽神社でお参りされ、弾むような笑顔でお山へ向かわれます。2泊3日の登拝を終えられた後は、登る前より更にお元気が増し、活力にあふれ「行ってきたよー!」と言いながら帰って来られ、お山のお話をしてくださいます。本当は腰痛、他、様々な症状を抱えていらっしゃいますが、そのことはおくびにも出さず、楽しくお話をしていただき、私達に元気を与えてくださいます。

  

 しかし今年は少しご様子が違いました。朝お迎えした時、笑顔ではいらっしゃいましたが、「気持ちはあるが、身体が前に曲がってしまう」と言われて、腰を90度にかがめ、ゆっくりゆっくりと歩かれて御嶽神社にお参りされてご出発されました。3日目に弊社の店舗まで下って来られたのは夕方の3時過ぎでした。開口一番おっしゃったのは「これでお山は終わりだ」のお言葉でした。大変驚きながら、お言葉を反芻しました。すると「いいお天気だった。今までで一番いいお山だった。」とおっしゃいました。そして御嶽神社へお参りに向かわれました。一歩一歩本当にゆっくり歩かれてお参りをされました。その後店内にお入りいただき、お話を伺いました。

  

 「これで一世一代の大仕事を終えた、これでお山の上まで行くのは最後。これで88歳、来年は89歳、気持ちはあるが身体がついてこない、年が大きくなったということ」「途中で、これ以上いけないかもしれないと思ったが、神様が最初から最後までついてきてくださったので行ってくることができた、皆のお陰でもある、とてもありがたい」とおっしゃいました。

 

 そして「これでお山の上まで行けないと思うと悲しい。でもそれだけ年が大きくなったということ。ここで気持ちを切り替えて、また他のことで信仰の道は続ければいい。来年も、と登っても皆に迷惑をかける。そうではなく、ここで気持ちを切り替えて、新たなことをやっていく。」とおっしゃいました。

 

 「悲しい」というお言葉をはっきりお聞きしたのは初めてのことであり驚きました。しかし何より驚いたのは「ここで気持ちを切り替えて、他のことをやっていく」というお言葉でした。先生はお山がとてもお好きで、毎年の登拝を心から大切にしてこられたのだ、お山に登ることは人生の中で無くてはならないことなのだ、と改めて感じました。しかしそれだけ大きな意味を持つ登拝を今年でやめて、気持ちを切り替える、ということ。その毅然としたお心の在り様に、心から深く感銘を受けました。言葉では表すことのできない、大きな、大きなものをいただいたと思いました。

 

 自分も年が大きくなった時に、こうでなくてはならない、人として最後の最後まで最善の努力をする、でも自分を知り、できないことはできない、気持ちを切り替える、そして新しい道を歩む、人生をこのように毅然として最後まで全うしなくてはならない、という本当に大きな学びをいただいたと思いました。

 

 先生はいつも「ありがとう」とおっしゃいます。「大変だ、疲れた、つらい、というと神様に怒られる、何があってもありがとう、ありがたい、だよ。」と言ってくださいます。お身体がいくらつらくても、それを口に出されないのはそのお考えによるものと思います。また「ありがとう、はタダだからいくらでも言える、ありがとうと言われて嫌な人はいない。だからありがとう、ありがとう、と言いなさい。」「自分で生きているのではない、生かされている、だからありがたいよ。」と教えてくださいます。それをおっしゃるから、お身体の不調をいくら抱えていてもお元気で笑顔にあふれ、冗談を沢山飛ばし、皆にまで元気を分け与えてくださると思います。この時も「皆のお陰で登ることができた、ありがたい、ありがとう」と何度もおっしゃいました。そうおっしゃるお姿に涙が出てまいりました。

  

 このように学びをいただくことのできる私どもは幸せです。毎年、毎年の夏山で新たな学びをいただきます。お客様お一人お一人との時は何物にも代えがたく、大きな力をいただき、そのお陰で豊かな心で過ごしていくことができます。一年で最も多くのお客様に直接お会いさせていただく夏山は、弊社にとりまして原点に立ち返る時でもあります。9月3日には閉山祭が行われ、今年の夏山もひと段落となります。ご来訪いただき、心に残るお言葉をいただきました多くの皆様へ、心より感謝申し上げます。

 

 まだ引き続き暑さが続くようです。どうぞお身体に気を付けて季節の変わり目を健やかにお過ごしくださいますようお祈りしております。

 

 ※冒頭の写真:2024年8月18日 王滝村田の原から望む朝焼けの御嶽山

出典: 精選版 日本国語大辞典


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