明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

新年にあたり、初詣は「諏訪大社」にと考え、下調べをしてみました。

　　

信濃の国は十州に　境連ぬる国にして

そびゆる山はいや高く　流るる川はいや遠し

松本伊那佐久善光寺　四つの平は肥沃の地

海こそなけれ物さわに　万足らわぬ事ぞなき

　　

四方にそびゆる山々は　御嶽乗鞍駒ケ岳

浅間はことに活火山　いずれも国の鎮めなり

流れよどまず行く水は　北に犀川千曲川

南に木曽川天竜川　これまた国の固めなり

　　

木曽の谷には真木茂り　諏訪の湖には魚多し

民のかせぎも豊かにて　五穀の実らぬ里あるや

しかのみならず桑とりて　こがいの業の打ちひらけ

細きよすがもかろからぬ　国の命をつなぐなり

　　

と、長野県歌「信濃の国」にもありますように、周囲は山々に囲まれ、その中央部やや南に諏訪湖があり、この湖の東側に前宮と本宮の上社、西側に秋宮と春宮の下社があり、これら四つの社殿が諏訪湖を囲むように一社を構成鎮座しているのが「諏訪大社」です。全国に一万余もある諏訪神社の総本社です。

　　

【先史時代の諏訪と原始信仰】

諏訪地方は一万年以上も昔にすでに人類の足跡をとどめており、諏訪市茶臼山から旧石器時代の遺跡が発見されています。諏訪地方は縄文遺跡が極めて多く、縄文文化の栄えた地域であり、弥生時代の後期には多くの古墳が築かれています。こうしたことから、諏訪地方には自然を崇拝する原始からの信仰があったものと思われます。八ヶ岳や蓼科山の美しい姿や忽然と濃霧に消え再び姿を現す霧ヶ峰の七島八島の様子に原始の人々は神秘を感じたに違いありません。諏訪湖の轟音とともに発生する御神渡り現象には神のなせる業としか思わずにはいられなかったと思われます。守屋山は古くから"もりやさま"と仰がれ、豊富に湧く湯も"湯膳様（ゆぜんさま）"と呼んで大切にし、湯口に湯神を祀る風習が残っています。

　　

【古事記の諏訪大神】

さて、わが国最古の文献として知られる「『古事記』には、「建御名方神（たてみなかたのかみ）」が出雲から諏訪に移り鎮座したときのもようが記されています。建御名方神は大国主神の第二子であり、先住の人々とどのように融合調和したのかは定かではないのですが、神氏（建御名方神）と先住の守矢氏（曳矢神を祖とすると言われている）の間の長い葛藤の後、神氏は大祝（おおほおり）として祭の頂点に立ち、先住の守矢氏は神長官として政を司ったのではないかとされています。建御名方神はその御神徳により全国津々浦々数多くの御分社の鎮座をみるようになったと言われています。こうして狩猟神の建御名方神の神格に曳矢神の農業神としての神格が加わり、今日の狩猟神格から派生した武神と農業守護神の神格が形成されてきたものと考えられています。

　　

【鹿食免（かじきめん）】

諏訪大社で行われている祭儀は農耕・狩猟に関するものが多く、特に上社は狩猟的性格、下社は農耕的性格をもった祭儀が多く残されていて、その中でも「鹿食免（かじきめん）」は、上社年中祭礼中大変重んじられており"安全な食生活を願う"特殊な神事として今日まで続いています。

　　

【御神渡り（おみわたり）】

御神渡りは寒気によって凍結した湖面に亀裂が生じる現象で、夜明け方の静寂を破ってとどろく破裂音は人々に衝撃を与え、上社から下社方面に向かって亀裂が走る様は古代の人々に神が渡ったと思わせるに十分なものがあり、"神様の通った道"という伝説が言い伝えられています。一年に一回、上社の男宮「建御名方神（たてみなかたのかみ）」が下社の女宮「八坂刀売神（やさかとめのかみ）」に会いに行ったという伝説です。

　　

【御柱祭（おんばしらさい）】

諏訪大社の御柱祭は七年目ごと寅（とら）、申（さる）年に行われ、社殿の御造営事業と御柱の曳建行事に分かれ、社殿の御造営が神社の内部的祭事であるのに対し、御柱の曳行並びに曳建は諏訪六市町村の氏子たちによって執り行われます。巨大な樅の柱を上下両社ともそれぞれ社殿の四隅に新しく曳建を行うもので、山出し祭と里曳・曳建祭とに分かれて奉仕する祭りです。諏訪大社の中でも最大にして最も重要な神事とされています。千二百年以上も連綿と受け継がれてきた諏訪の誇り高き伝統文化です。

　　

諏訪大社には日本古来の信仰形態が脈々と今日に至るまで伝承されているのです。

皆様のご多幸を心よりお祈りいたしております。

　　

参考文献：三輪磐根著『諏訪大社』

福澤健太郎著『諏訪大社の起源を探る』

藤森栄一著『諏訪大社』