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生薬の話

命は巡る

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新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

  

■サーキュラーエコノミー

先日、長野市で開催された「ものづくり産業からサーキュラーエコノミーを考えるシンポジウム in NAGANO」に出席させていただきました。サーキュラーエコノミーとは、日本語では循環経済または循環型経済と訳されます。環境省の発行する白書では下記のように定義しています。

  

資源・製品の価値の最大化を図り、資源投入量・消費量を抑えつつ、廃棄物の発生の最小化につながる経済活動全体の在り方

  

地球上の限りある資源を大切に使うこと、廃棄は最小限にすること、このために一度作ったものは長年大切に使い、使えなくなったもの・使われないものは新たな付加価値のあるものに変え、また大切に使うことと理解しています。従来の大量生産、大量消費、大量廃棄を行う経済から脱却し、自然と調和し、これまでのように大きな負担をかけずとも豊かな暮らしを実現することを目指した新たな経済システムです。ヨーロッパで初めて提唱され、現在は世界中の国々が推進し、これを意識したビジネス活動が行われているそうです。

  

シンポジウムでは、長野県内またはゆかりのある企業・団体の方々が、りんごの搾りかすを用いたレザーや、森林の整備で出てくるスギなどの間伐材を作った糸や繊維、間伐材と廃食用油由来の樹脂をかけ合わせた食器など、様々な素晴らしい製品を展示、紹介されていました。また、パネルディスカッションでは、これらの企業・団体の代表や管理者の方々が登壇し、開発に至った経緯や今後の展望についての意見交換が行われました。自然と調和したものづくりの考え方、柔軟な発想とアイディア、最新鋭の技術などを知り、大いに刺激を受け、ワクワクしながら会場を後にしました。

  

■キハダの全ての部分を余すところなく使う

弊社の百草・百草丸は、ミカン科の落葉高木キハダの周皮を除いた樹皮である生薬オウバクを主成分としています。国内産のオウバクは年々希少となっています。しかし信州木曽の自然の恵みの恩恵を受けて社業を営んでいる弊社では、何としてでも国内産の生薬を用いた薬づくりを継続していきたいと考えています。このために毎年、キハダの植樹や、キハダ一本から買います活動、キハダの皮むきなどを多くの方々のご協力をいただきながら実施しています。

  

この時、弊社では、薬効成分のある樹皮のみでなはく、中の材も、枝も、葉も、実も、キハダの全てを余すところなく利活用したいと考えています。キハダの皮むきは、キハダを伐倒して行います。皮むきの適時は梅雨時の木が最も水を吸い上げている時期です。葉が美しく青々とし、今まさに成長する生命力にあふれたキハダを伐って、皮をむくのです。自分たちの年齢よりも長く生きているキハダの命をもらって薬づくりをしていることを、私ども日野製薬の社員は忘れてはいけません。これを考えた時に、皮だけでない、全ての部分を利活用しなくてはならない、と強く思います。また、キハダの木があるからやるよ、といってご連絡をくださる近隣のご年配の山林所有者の方々の収益をもっと増やしたいと願っています。国内産オウバクの入手が困難な理由の一つは、林業の衰退にあるとの推察に至っています。森林の維持管理には様々な費用がかかります。この負担に少しでも充当すべく、山元にお金が落ちる仕組みが必要である、ということも常々痛切に感じています。

  

このために、薬効成分のある樹皮だけでない、それ以外の部分も利活用したい、というのが私どもの大きな願いです。これを実現していくための大きなヒントとアイディアをシンポジウムにおいていただきました。自然の恵みを大切にして暮らすことは、古くから伝わる人間の知恵だと思います。これに最新の技術を掛け合わせ、新たな価値をご提供できるよう、弊社も微力ながら今後取り組んでいきたいと思います。

  

■キハダの命は巡る

さて、先日、キハダの実の採取を行いました。木祖村の教育委員会では、間もなく昭和100周年を迎えるにあたって、村内に古くから伝わる暮らしの文化を映像に残す記念事業を行っています。この一環としてキハダの実を使った「キハダ餅」づくりを映像に残すことが決まり、弊社にお問い合わせをいただきました。木祖村のご年配者の方々とご一緒に弊社社員がキハダの実を採取し、その様子を映像に撮ることとなりました。

  

採取の当日、キハダの木を所有するご年配者の方のところへ伺うと、「このキハダは、ずっと前に日野製薬から苗木をもらって植えたキハダだよ。」と教えていただきました。数えると40年も前のことではないかということです。立派に大きく成長し、沢山の黒い実をつけたキハダを目の前にして、大きな感動を覚えました。そしてキハダの実を採取するため、切り落とした枝の切り口から、とても鮮明で美しい黄色の樹皮が見えました。これが生薬オウバクです。ご年配者の方々は本当にお元気で、山になるほど沢山の実を採取しました。そして、昔の日野製薬の様々な思い出を聞かせていただきました。そしてキハダ餅にするために採取した実ですが、その一部を弊社に分けてくださいました。今後、実から種を取り出し、畑に撒いて育苗し、山に植樹をしていきたいと考えています。

  

まさに命は巡る、です。キハダが生まれ、育ち、大きく成長し、その命を終えるまでの自然の在り様を、横で伴走するがごとく見て、貴重な学びをいただき、私どもは百草・百草丸づくりを継続させていただいています。こんなに有難いことはありません。社員一同、自然の恵みに感謝し、大切にし、常に謙虚な気持ちを忘れず薬づくりを行い、多くの方々のご健康のお役に立ちたいと考えています。

  

2024年もどうぞ宜しくお願いいたします。どうか皆様にとって良い一年となりますようにお祈りいたします。

 

日野製薬株式会社

代表取締役社長 石黒和佳子

  

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出典:
「ものづくり産業からサーキュラーエコノミーを考えるシンポジウム in NAGANO」:公益財団法人長野県産業振興機構主催
「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」:環境省


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