薬食同次元
山の神様の日
今年は暖冬で、木曽谷でも例年より寒さが穏やかな日が続いています。しかし朝晩は零下となり、草木に下りた白い霜が、陽の光を受けてきらきらと輝く季節が訪れています。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
11月10日は「山の神」の日でした。山の神様に、今年の山での作業の無事や、一年を通していただいた多くの山の恵みに感謝する日です。木祖村では、毎年3月と11月に山の神のお参りをしています。このことをいつもお世話になっているおじいさん、おばあさんから聞いていました。
弊社の百草・百草丸の主成分は生薬オウバクで、ミカン科の落葉高木キハダの樹皮です。まさに山の恵みをいただいて、つくることのできる薬です。最近は社員が山に入り、キハダの植樹、キハダの下刈り、キハダの伐倒と皮むきなど、様々な作業をさせていただいています。毎回作業の時は無事と安全を願い、社員が山から下りてきた時にはほっとします。この感謝の気持ちを持って、山の神のお参りをすることが必然のことのように思いました。従来、社員の中に自宅で行っている者もいましたが、今年から弊社として「山の神」を行うことにしました。
山の神とは
10月下旬、おじいさん、おばあさんのところへ伺い、木祖村で古くから伝わる「山の神」について詳しく教えていただきました。
「山の神」は、3月10日と11月10日に行います。3月10日は、神様が山に上がる日で、一年の山の無事を祈願します。11月10日は、神様が山から里に下る日で、一年の山の無事と恵みに感謝します。木祖村では3月の上旬から福寿草の黄色い花が咲き、ふきのとうが少しずつ土から顔を出します。山菜採りはこの頃から始めます。また11月上旬には紅葉も終わり、キノコ採りの時期も終了し、雪が舞い始めます。まさに3月10日、11月10日は理にかなった日であり、昔の人はすごいと改めて思います。
山の神の日には、御神酒、頭のついた魚、餅のお供えを行います。御神酒は一升瓶ではなく、徳利に入れたもので良いということです。頭のついた魚は、種類は何でもよいそうです。「そりゃ鯛の尾頭付きを使えればそれが一番いいけど、イワシでも何でもいいよ」と笑いながら言っていただきました。餅は米粉で作ります。お正月の鏡餅のようにお餅を二重に重ねるそうです。これについては実際に作り方を教えていただきたいとお願いしました。前日に作るとお聞きし、11月9日にお訪ねさせていただくこととなりました。(詳細は後述)
山の神の日には、自宅にお祀りしている山の神様と、山の祠にお祀りしている山の神様にお供えを上げて、お参りをします。お供えを作るのはおばあさん、山の祠へお参りに行くのはおじいさんということです。
前日のお供えの準備
11月9日、お餅の作り方を教わるため、おじいさん、おばあさんの家を訪ねました。
お供えのお餅の作り方
・米粉にお湯を加え、まぜてこねる
・かたまりを取って丸めて少しつぶす
・一回り小さいかたまりを取って丸めて少しつぶす
・2つのお餅を鏡餅のように重ねる
・お皿に乗せて神様にお供えする
神様にあげるものは、水を使うのが本来のやり方だそうですが、よく混ざらないのでお湯を使っているということでした。また、神様にあげる餅は生のままで、ふかしたりゆでたりしないということでした。
また、神様のお餅をつくると同時に、人間が食べる餅も作ります。
人の食べるお餅の作り方
・お餅を手に取って丸く広げる
・そこにあらかじめ小分けにしたあんこを入れて包む
・餅を一つ一つラップで包む
・蒸し器で15~20分ほど蒸す
「神様に上げるお餅は生でなくてはならないけど、人間の食べる餅は中にあんこを入れてふかして食べられるようにする」「近所の人を呼ばってきて、皆で食べるよ」と教えていただきました。人間の食べる餅は、木曽の初夏の風物詩「ほうば巻」の中身ととても良く似ていました。
作り終わると、おじいさん、おばあさんがお茶を出してくれ、いただきながら色々なお話を伺いました。おばあさんは、弊社本社の神様にお供えするお餅、そして人間の食べる餅を、沢山分けて持たせてくれました。申し訳ないくらい沢山のものをいただいて帰ってきました。
山の神の日
「山の神」の当日の朝は、もうすぐ雨が降りそうな曇り空でした。三宝にお供えを載せて準備しました。朝礼の後、社員の皆で本社の社殿にお供えを上げてお参りをしました。今年のキハダにかかる作業の無事といただいた恵みについて御礼しました。
おじいさん、おばあさんから「昔はここいらじゃ、皆山の神をやっていたが、今はやる人が少なくなってね、近所じゃうちともう一軒ばかしかやっていない」というお話を伺いました。「山の祠も、昔は、それぞれの家が、自分の山に作ってお参りしていたが、最近はそれもなくなってしまった」ということでした。これはとても残念なことと思います。「最近の人はそんなの迷信だ、という人もいる、でもおらほじゃ、これは大事なことと思って、毎年じっとやってるよ」と伺いました。いつから行われているか分からないほど古い習わしですが、自然の恵みへの感謝や、畏れを持つ謙虚な人の心によって、毎年連綿と続けられてきた風習だと思います。見よう見まねでも、教えていただいたことを毎年続け、細々とでも未来へつないでいくことが、大切ではないかと感じました。
おじいさん、おばあさんに感謝しています。これから社員の皆で毎年しっかり継続していきたいと思いました。歳末が近づき、あわただしい日々となりますが、寒い日も続きます。どうかお体に気を付けてお過ごしください。