薬草の花
カタクリ(片栗)【4月】
はじめに
市川董一郎氏(文)栗田貞多男氏(写真) が 2011 年に出版した「信州・薬草の花」 は、信州の自然「薬草」をテーマとしたエッセイ集です。
市川董一郎氏は代表取締役井原正登の高校の同窓生で、このブログへの掲載を快く承諾してくださいました。
今後この中から季節に合わせた内容を順次掲載して参ります。
市川董一郎氏・栗田貞多男氏には、厚くお礼申し上げます。
さながら春の妖精
カタクリは、春一番に咲いて他の植物が繁茂するところには姿を消してしまう"春の妖精(スプリング・エフェメラル)"と呼ばれる植物のひとつで、さらに信州の春を代表する野草でもある。
明るい日差しの中で、薄紫色の花はうつむき加減に、やや控えめに咲くが、花被片を精一杯に反り返らせて咲く姿は、まさに春の妖精の呼び名にふさわしい植物である。
あるとき、完全に開いた花を下から見上げたら、内側の花被片付け根ぎりぎりに濃紫色のW字状の斑紋があり、その独特の美しさに感激した。
球根は滋養薬
カタクリの球根(鱗茎)から採った澱粉粒(でんぷんりゅう)を片栗粉と呼ぶが、食料に、あるときには滋養薬として利用されてきた。
同じように、澱粉粒にして利用されてきたのが葛粉であり馬鈴薯澱粉である。
植物がつくった炭水化物は澱粉粒の形で、鱗茎や種子に保存される。
澱粉は食料になり、私達が生きていくのに必要なエネルギー源である。
その代表は米や麦。トウモロコシなどの穀物なのだが、穀物には澱粉粒のほかにセルロースなどの不消化成分が含まれている。
それに対し、カタクリ澱粉などの澱粉粒はほぼ100%純粋の澱粉のため、消化吸収がよく、胃腸に負担をかけることが少ないので、小児や病人の栄養源として用いられてきた。
澱粉粒は、アミロースとアミロペクチンという多糖体よりできている。
植物の種類によって両者の割合が異なる程度で、成分にかわりはあまりない。
いずれの多糖体も消化管に入ればデキストリン、麦芽糖、ブドウ糖と分解され、吸収されてエネルギー源になる。
ユリ科カタクリ属(Erythronium Japonicum)
生薬名:片栗澱粉(かたくりでんぷん)
花期:三月~五月
【ミニ図鑑】現在「かたくり粉」として売られているのは、ジャガイモから採った馬鈴薯でんぷん
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(著)栗田貞多男(著)