薬草の花
カラスビシャク(烏柄杓)【11月】
根球部分、漢方の重要な生薬に
(写真①:高さ30センチほど、細長い独特な仏炎苞と肉穂花序)
カラスビシャクはサトイモ科の植物で、この科の共通点は一見花弁のように見える仏炎苞(ぶつえんほう)である。
サトイモ科にはミズバショウ属、ザゼンソウ属、ショウブ属、さらに食用になるサトイモ属、コンニャク属など身近な植物がある。そのなかで、 ハンゲ属のカラスビシャクはよく畑に生える雑草だが、地上部を抜き取っても地下茎 (根球)が残るので、簡単には根絶できない厄介者である。
生薬「半夏」(はんげ)は、芋にあたる根球部分である。収穫した根球は上部の中心が臍のように凹んでおり、さらに農家の主婦が畑仕事の合間に雑草のカラスビシャクの根球を採取して売れば小遣い稼ぎになるため、別名「へソクリ」とも呼ばれる。
半夏は生のままでは毒性や刺激性があり、処理が必要である。漢方では重要な生薬で、健胃、去痰、さらに抑うつ、神経症を和らげる理気作用があるとされ、胃腸の痛み、吐き気、嘔吐、咳、痰、喉の痛みなどに広く用いられる。さまざまな生薬と組み合わされて使用され、成分はフェノールカルボン酸のホモゲンチジン酸や各種脂肪酸、 エフェドリン、 コリンなどである。
サトイモ科のテンナンショウ属の植物には、仏縁苞に濃紫色の縞模様が入り花茎の基部にヘビの鱗(うろこ)模様かあるマムシグサや、肉穂花序の先端が極端に細長く伸びるウラシマソウのような、 一見グロテスクな種がある。ほかにも、コンニヤク属の花はかなり特異で、世界一大きな花として知られているスマトラオオコンニャクなど、珍しい花を咲かせるものもある。
(写真②:径1センチほどの丸い地下茎(根球))
Pinellia ternata サトイモ科ハンゲ属 別名・ヘソクリ
生薬名・半夏(ハンゲ)
【ミニ図鑑】外部の仏炎苞が、内部の異臭を持つ肉穂花序を保護する。
▶花期 五月~七月
(写真③:テンナンショウ属ウラシマ草は付属体の先が弓状に長く延びる。)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)