薬草の花
ウメ (梅)【1月】
薫蒸、乾燥した生薬に抗菌作用
寒さの厳しい信州でも、二月末には南信からウメの開化の田より便り届き、梅前線は徐々に北上する。早春は寒の戻りがよくあるが、ウメはいったん開化すれば突然の降雪にもじっと耐える。しかし、穏やかな日差しが戻れば、淡雪は瞬く間に溶けて虫たちは活動を始める。寒い時期に開化するウメは、受粉を確実にするため他の果樹に比べて開化の時期が長い。
生薬名は烏梅(うばい)
青ウメを薫蒸(くんじょう)して乾燥したものが、生薬の「烏梅」である。生薬の色調が黒褐色のため烏の字をあてたのである。日本には樹木より先に薬として「烏梅」が渡来したため、木そのものをウメと呼ぶようになったようだ。ウメの果実の酸味は強烈で、その成分はクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸である。クエン酸は胃液の分泌を高め、ペプシンを活性化させ蛋白質の消化を促進する。さらに、烏梅には種々のトリテルぺノイドが含まれ抗菌、抗真菌作用を有す。漢方処方ではさまざまな生薬と配合され、慢性の下痢や、腹痛、炎症による発熱などに使われてきた。また、日本の民間でも梅肉膏の呼び名で、歯痛や頭痛の治療薬として親しまれている。
「桜切るバカ、梅切らぬバカ」
バラ科の植物の特徴は、葉柄の付け根に托葉をつけること、葉の基部に腺体をもつこと、花は多数の雄蕊をもつこと、などである。果樹では、ウメ、モモ、リンゴ、キイチゴほか多種ある。ウメを始めとするサクラ属は、前の年に伸びた枝に花を咲かせ、実をつける。枝先まで果実をつけさせると品質が落ちるため、晩秋から早春に剪定をして枝を切り詰める必要がある。花だけを楽しむサクラならともかく、果樹は剪定が必要で、「桜切るバカ、梅切らぬバカ」といわれるゆえんである。
Prunus mume バラ科サクラ属、別名●ムメ、生薬名●烏梅
▼花期 二~四月
【ミニ図鑑】未熟な梅の実や、種(核)にはシアンが含まれるため、食べないこと
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(著)栗田貞多男(著)