薬草の花
フジバカマ(藤袴)【9月】
秋の七草、茎と葉は浴用薬に
(写真①:初秋、密集した頭花にはアサギマダラがよく集まる)
秋の七草のひとつフジバカマは日本古来の花と思われているが、中国原産で日本には奈良時代に渡来した可能性が強い。半野生状態になったものも稀に見られるが、関東以西にしか自生できないという。水湿地を好む植物で、長野県内では川岸や田んばの畦に植えられたフジバカマをよく見かける。どれも丈高く成長しており、最近は栽培されている西洋種もあるという。
フジバカマの花は、生のままではそれほど匂わないが、半乾きにすると桜餅の葉に似たよい香りがする。生のフジバカマに含まれるオルトクマール配糖体は、乾燥する途中で加水分解され芳香を もつクマリンに変わる。フジバカマの開花の時期、その芳香に誘われて高原から下りてきたアサギマダラが蜜を吸いに群がり、栄養を十分蓄えて九州の先まで渡っていく。
(写真②:茎先の散房花序。小花から2本の花柱がのびる)
フジバカマの茎、葉を乾燥したものは「蘭草(らんそう)」と呼ばれ、一般的には浴用薬として使用される。民間薬として煎じて浮腫に使われるくらいで、植物そのものは医薬品としての利用はない。しかし、先に述べたクマリン誘導体は現代医学では重要な薬剤になっているので紹介する。
腐ったクローバーを食べた家畜が出血傾向の疾病に倒れたことがきっかけとなって、クマリン誘導体のジクマロールは、ビタミンKが関係するフィブリン凝固を抑制することがわかった。ジクマロールは抗擬血剤として広く用いられたが、今はさらに改良を加えたワルファリンカリウムが、心臓や血管内の血栓を抑制する薬剤として、循環器疾患にはなくてはならない薬剤となっている。
Eupatorium fortuneiキク科ヒヨドリバナ属
別 名●コメバナ、カオリグサ
生薬名●蘭草(らんそう)
【ミニ図鑑】信州の高原によく見られるヨツバヒヨドリも同属
▶花期 八~九月
(写真③:同属のヨツバヒヨドリ。高さ1~1.5メートルほど。高原の道沿いなどに多い)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)