薬草の花
トリカブト(鳥兜)【9月】
口にすれば死に至ることも
(写真①:濃い紫色の花。夏から秋にかけてやや湿った山野によくみられる)
夏の終わりから秋にかけて、日本の山野ではヤマトリカブトが一般的である。丈高く伸びた花茎の先端に紫色の美しい花が多数つき、花の形状が舞楽でかぶる冠(鳥兜:とりかぶと) に似ていることから名付けられた。トリカブトの肥大した根茎や子根には毒性の強いアコニチンが含まれ、古くから毒矢に塗って狩に使うなどされてきた。トリカブトの中毒症状はロ舌のしびれ、嘔吐、下痢、ひいては運動麻痺、知覚麻痺、痙攣、呼吸困難から死にいたることもある。薬理学的には、アコニチンは心伝導障害、神経中枢とくに呼吸中枢麻痺の作用が知られている。
生薬は正確には、トリカブトの仲間の肥大した母根茎を「烏頭(うず)」と呼び、その周囲につく子根茎を「附子(ぶし)」と呼ぶ。近年その区別は曖味で、減毒前の毒性が強いものを烏頭、石灰にまぶしたり高圧で蒸して減毒したものを附子とする傾向がある。
(写真②:3センチほどのカブト状の花を数個ずつつける。2枚の写真の花はハクサントリカブトと思われる)
中国では漢方薬草としてはカラトリカブトが栽培される。附子は漢方では温熱、鎮痛、坑衰弱作用を持つとされ、風邪などの悪寒、腹部の冷え、リウマチなどの症状に種々の生薬と調合して広く用いられる。
長野県の高山にはホソバトリカブト、ハクサントリカブトなとが自生するが、トリカブトの仲間は細かく分類されている割に、花や茎、葉の形が似通っていて見分けがむずかしい。しかし、どれも花は美しく、トリカブトの仲間を訪ねて夏の高山を歩くことは楽しい。一方、春の山菜の時期に、同じキンボウゲ科のニリンソウと間違えて食べないよう注意か必要だ。
Aconitum sp.
キンポウゲ科トリカブト属
生薬名●烏頭(うず)、附子(ぶし)
【ミニ図鑑】強毒性で、春先には山菜のニリンソウと誤食した中毒例か聞かれる
▶花期 八~十月
(写真③:春、山菜のニリンソウ。ヤマトリカブトの若葉はよく似ているため、注意が必要)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)