薬草の花
ツリガネニンジン(釣鐘人参)【9月】
肥大する根茎、咳、たんに利用も
オケラと並んで美味しい山菜とされるトトキはツリガネニンジンのことである。昔は若い芽がよく食べられたそうだが、山菜図鑑を見るとそれほどうまい山菜でもないそうだ。
さらに、この植物は、最近では高原に行かなければお目にかかれないので、摘んできて食べるには気が引ける。
ツリガネニンジン(釣鐘人参)という名の由来
山菜のことはともかく、キキョウ科のツリガネニンジンは夏から秋の山野を代表する花のひとつである。
薄青紫色の花も涼しげで、すっと伸びた花茎に数段にわたって輪状に花がつく様子は、シャンデリアを連想させる。
一方、花弁からはみ出すように伸びた雄蕊(おしべ)は、鐘の中で振り鳴らす鉄槌を思わせユニークである。
花が釣鐘上で、根茎が太くてニンジンのように肥大するため、この名がついた。
長野県ではツリガネニンジンの高山型のハクサンシャジンが高山の砂礫地に分布するが、両者は生育環境の違いで姿形が異なるが、実際には同じ種であるという。
生薬名は「沙参(しゃじん)」あるいは「南沙参」
本来は中国原産のサイヨウシャジンやトウシャジンなどの根を指す。
シャジンの名は日本の植物にもつけられており、先に挙げたハクサンシャジンやヒメシャジンと、長野県南部に生育するイワシャジンなどがある。
「沙参」には、トリテルペノイドサポニンや多糖体のイヌリンが含まれ、咳やたんの薬として利用されたが、今はあまり使われない。
古くはその名前から人参(にんじん)と混同され強壮薬として用いられたが、実際にはその作用はない。
中国漢方では南沙参に対して「北沙参」があるが、これはセリ科のハマボウフウの根で薬効は同じである。
キキョウ科ツリガネニンジン属(Adenophora triphylla var. japonica)
生薬名:沙参(しゃじん)
花期:八〜十月
【ミニ図鑑】花が輪生しないソバナも信州の秋の草原では普通
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(著)栗田貞多男(著)