薬草の花
ミツガシワ(三柏)【8月】
花弁の内側には白毛が密生
(写真①:径1~1.5センチ。よく見ると密集した白毛が美しい)
初夏の高原を歩くとき、浅い沼地に白い小さな花を咲かせたミツガシワの群生に出逢うことがある。近ついて花を観察すると、花弁の内側に白毛が密生している。昆虫の目で、小さな花を少しでも大きく見せるための工夫なのだろう。同じような構造は、キカラスウリやシラヒゲソウでも見られる。植物が生き残るための知恵を感じる。
花名の謂れ(いわれ)に関し、「三枚のカシワに似た葉を持つから」との説があるが、小葉はどう見てもカシワとは異なる。 一方、「カシワの葉三枚を図案化した紋どころの『三つ柏』に、この葉が似ている」説は納得できる。
ミツガシワは最近までリンドウ科の植物とされていたが、リンドウに含まれるゲンチオピクリンを含まないことより別科とされた。自然科学か発達することにより植物の分類学は変わっていくだろうが、これからは遺伝子解析などで決められるようになるだろう。最近の知見では、「ユリ科の植物は、その点で大きな変更があるだろう」とされる。
夏に葉柄ごと採取して日干しにしたものが、「睡菜葉(すいさいよう)」である。胃もたれや腹痛に、乾燥した葉を煎じて飲む。成分は、イリドイド配糖体のロガニンやフラボノイド配糖体のトリフォリンである。 リンドウ科特有の苦み成分のゲンチオピクリンは含まれなくても、胃腸薬としての効果はあるらしい。しかし、その使用は限局的である。
(写真②:特徴ある3枚の葉。薬用には夏の葉柄を日干しする。)
Menyanthes ミツガシワ科ミツガシワ属 別名・ミズハンゲ 生薬名・睡菜葉(すいさいよう)
【ミニ図鑑】高さ二十~四十センチほど。高原の湿地や湖沼の水辺に自生する
▶花期 五月~八月
(写真③:春、群生する戸隠高原の湿地)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)