薬草の花
ヤブカンゾウ(藪萱草)【8月】
日本の夏らしい花を咲かせる
夏の盛りに咲く明るいオレンジ色の花は、信州の人里ではどこでも見掛ける。 八重の花は豪華で、いかにも日本の夏にマッチしているような印象を持つが、実際は中国原産のユリ科の植物である。
基本種の花弁が一重のホンカンゾウは栽培種で、おもに庭に植えられるが、ヤブカンゾウのほうが普通である。
ヤブカンゾウの花は切り取って花瓶に飾っておいても、翌日には萎んでしまうので、切り花には向かない。
ちなみに、日本に渡来したヤブカンゾウは、三倍体のため結実しない。
同じく、中国から渡来したヒガンバナも三倍体で結実しないが、いずれも根茎や球根の移植で繁殖する。
若葉や花、つぼみが食材にも
ヤブカンゾウは芽吹いたばかりの若葉を摘み取って、ゆでて酢味噌和えなどで食べることもでき、利用価値のある植物である。
緑色が鮮やかで春の訪れを感じさせるが、軽くニンニク臭があるのであまり食べすぎない方がよいかもしれない。
夏には、蕾や乾燥させた花も食材として利用される。
生薬名は「萱草根(かんぞうこん)」
紡錘状に連なった根は、生薬「萱草根(かんぞうこん)」で、漢方では利尿、涼血、消炎、止血薬として、膀胱炎や不眠症に用いられる。
開花直前の花蕾を乾燥したものが「金針菜(きんしんさい)」で、消炎、止血薬として血尿、痔などに用いられる。
成分はβ-シトステロールと数種のアミノ酸が報告されている。
ヤブカンゾウは、ユリ科ワスレグサ属の植物であるが、この仲間には長野県の山野におなじみの植物が多い。
ゼンテイカ(ニッコウキスゲ)は霧ヶ峰の群生地が特に有名だが、県内の低山から亜高山に多く花が美しい。
ユウスゲはゼンテイカより花の色が淡いが、夕闇の中で咲く黄色い清楚な花は信州の山野にふさわしい。
ユリ科ワスレグサ属(Hemerocallis fulva var.kwanso)
生薬名:萱草根(かんぞうこん)
花期:六〜七月
【ミニ図鑑】漢方薬でよく使われる甘草は、マメ科の全く異なる植物
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(著)栗田貞多男(著)