薬草の花
サイカチ(皀莢)【6月】
巨大なさや、せっけん代わりにも
(写真①:下向きに黄緑色の蝶形花をまとめてつける)
成長すると胸高直径が一メートルにもなるマメ科の高木で、湿り気のある土地を好み、普通は湖沼の周囲などの平坦な湿地に多いとされるが、県内では谷沿いの山地の所々で見かける。また、社寺の庭などに植えられているのを見たこともある。この木の特徴は、太い幹の枝の分かれ目に細長く鋭い刺が星芒状に生えていることである。刺は枝分かれしていて硬くてかなり鋭いが、その存在意義が分からない。木に登ろうとするリスなどの小動物を追い返すためだろうか?
秋に長さ三十センチにも達するひしゃげたサヤエンドウのお化けのような豆果をつける。この鞘(さや)にはサポニンが含まれるため、それを潰して水と一緒に手で揉むと、石鹸のようにぬるぬるして泡が出る。秋になっても鞘は枝から落ちず、干からびて茶色くなってもぶら下がっている。中国産のトウサイカチの豆果は生薬「皂莢子(そうきょうし)」あるいは「皂角子(そうかくし)」でトリテルペノイドサポニンのほかにスチグマステロールなどが含まれ、去痰作用や殺菌作用が報告されている。またサイカチの刺も中国では薬用とされる。和名のサイカチは、サイカチの豆果の漢薬名「皂角子」あるいは刺の「皂角刺(そうかくし)」に由来する。
(写真②:さながら干したマムシのような大きなさや(豆果))
ある人が、「サイカチの葉の姿はネムノキに似ているが、夜になるとしぼむか?」と聞くので、タ方遅くなって観察してみたが、葉は開いたままであった。同じマメ科でもサイカチ属とネムノキ属とでは姿形は似ていても相違点は多い。マメ科は日本では五十六属、百五十種ほどが自然で生育する大きな科である。根瘤バクテリアと共生して空気中の窒素を固定するので、痩せた土地でも育つ。
Gleditsia japonica
マメ科サイカチ属 生薬名●皂莢子(そうきょうし)、皂角子(そうかくし)
【ミニ図鑑】サイカチの若芽は、山菜として食べられるとされる
▶花期 六月頃
(写真③:幹や枝には放射状の鋭い刺がある)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)