薬草の花
ナンテン(南天)【6月】
縁起物、実や茎にせき止め効果
(写真①:初夏、常緑の葉に白い小花を多数つける)
ナンテンは中国原産のメギ科の小木で、赤や白の実をつけ、正月を飾る生け花によく使われる。また、「難を転じる」の語呂合わせで、古くから縁起物として親しまれてきた。
さらに、祝い事があると赤飯にナンテンの葉を添える。ナンテンには防腐効果があり、それは樹皮に含まれるナンジニンの作用であるとされる。初夏、総状花序に白色の小さな花が多数つく。花は雨に当たると結実しづらいので、受粉の時期は雨傘などで覆いをして雨を避けてやるとたくさん実がつく。
ナンテンの実「南天実(なんてんじつ)」や根、茎、「南天竹(なんてんちく)」にはせきを鎮める作用があることが知られており、その成分のナンジノシドβの構造式をヒントに、抗アレルギー剤のトラニラストか県内の製薬会社により開発、化学合成された。現在、この薬は気管支喘息やアレルギー性鼻炎、あるいはケロイドの治療薬として広く使われている。現代医学では植物から抽出した成分を加工して医薬品にしたり、あるいは先の例のように、薬効が期待できる植物成分の構造式を変えて医薬品を開発することはよくされることである。これからも、植物由来の薬品は開発され続けるであろう。
(写真②:秋から冬、真っ赤な実はよく目立つ)
南天実、南天竹にはナンジニンのほかドメスチンのなどさまざまなアルカロイドが含まれており、薬効は多彩である。ある種のアルカロイドは知覚、運動神経をマヒさせるという。ナンテンの赤と白の実の色による成分、薬効に差はない。メギ科の植物には、ナンテンのほかにメギやイカリソウなど種々のアルカロイドを持つ植物があり薬草として利用される。
Nandina domestica メギ科ナンテン属 生薬名●南天実(なんてんじつ)、南天葉(なんてんよう)
【ミニ図鑑】ナンテンは切り花として、長野県南部で広く栽培、出荷される
▶花期 五~七月
(写真③:園芸種のシロミナンテン。葉は紅葉しない)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)