薬草の花
スイカズラ(忍冬)【5月】
漂う甘い香り、毒消しの妙薬
(写真①:白い花は数日で黄色く変色する。このため「金銀花」とも)
スイカズラは、初夏に純白な花を枝いっばいに咲かせ、緑豊かな山野を明るく彩る。二つずつ対になって咲く二唇形の筒状花は、開花後間もなく黄色に変色し、そのころになると周囲には甘い香り漂う。白色と黄色の花が混在する性質から、同じ仲間のヒョウタンボクとともに金銀花とも呼ばれる。秋には黒紫色の液果を実らせるが目立たない。漢名の忍冬(にんどう)は冬も葉を落とさないことに由来するが、それは暖地での話で、信州では(少なくとも北部では)冬季は落葉する。
生薬として、葉を「忍冬」、花を「金銀花(きんぎんか)」と呼んで漢方では解毒、消炎、利尿薬として広く使われる。民間では花を酒に漬け込んだり、葉を茶にして、毒消しの妙薬として用いられた。成分はフラボノイド配糖体のロニセリンが葉に、花にはルテオリンが知られるが、他にもトリテルペノイドサポニンや各種アミノ酸も含まれる。葉は外用薬として湿疹、化膿症、痔、関節症などにも用いる。
(写真②:花や葉を摘み取り、陰干しにする)
この植物は「花を摘んで蜜を吸うつる状植物」の意味からスイカズラ{ 吸い鬘(かずら)}と名付けられた。合弁花の植物には花の蜜が吸える種がいろいろあり、スイカズラやオドリコソウなどがその代表である。大人になって、子どものころこれらの花を吸ったことを思い出して、再度やってみたがあまり甘さが感じられなかった。植物の性質が変わったとは考えにくいので、おそらく私の味覚が変わったのだと思う。このことを、以前ある稿に書いたら、「私もそう思う」という感想を多くの方から頂いた。成人して、感受性が鈍ることは寂しいことである。ところで、ツツジなど蜜は無毒でも、葉や花全が有毒の植物もあり、子どもたちはよく吸って遊ぶので注意が必要だ。
Lycium chinese
スイカズラ科スイカズラ属
別 名●キンギンカ
生薬名●忍冬(にんどう)、金銀花(きんぎんか)
【ミニ図鑑】スイカズラ科はガマズミ、タニウツギ、ニワトコ、ツクバネウツギなど花が美しい
▶花期 五~六月
(写真③:オドリコソウの花。この花の蜜も吸える)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)