薬草の花
トネリコ(秦皮)【5月】
民間・漢方に、材としても有用
(写真①:同属のマルバアオダモの花。放射状の白花は目立つ)
トネリコの語感は日本語離れしており、かつ北国に多いことから、何か北欧的な雰囲気がただよう。しかしその語源をたどると、この木の幹や枝につきやすいカイガラムシが分泌する白色の蝦(ろう)を塗ると、戸の滑りよくなることから「戸塗り木」、それが変じてこう呼ばれたという。材は強さと粘りがあり、割れにくいので野球のバットの材料になる。トネリコのバットは手に伝わってくる衝撃をよく吸収するという。また、ギターなどの楽器にも加工され有用性の高い樹木である。トネリコの花は目立たない淡緑色で、沢沿いの湿地に生えるが県内ではあまり見かけない。
一方、乾燥した土地を好むマルバアオダモは北信の里山では一般的で、初夏に白色の美しい花を咲かせる。もう少し標高の高い、やや湿った山地ではアオダモか多い。両者は小葉の形が異なるので鑑別できるが、アオダモの方が辺縁の鋸葉が荒い。ちなみに、アオダモとは枝を花瓶に挿しておくと、水か青く染まるから名付けられたというが、トネリコ属の樹木に含まれるエスクリンが水に溶けて青い蛍光を発するためである。
(写真②:春、新緑の中で枝いっぱいにびっしりと白い花をつけるマルバアオダモ)
トネリコの樹皮が生薬「秦皮(しんぴ)」で、薬理的には消炎、鎮痛、尿酸排泄作用が知られている。
漢方では下痢、帯下、目の充血に用いる。しぶり腹を伴う下痢にはオウレンや黄柏(きはだ)と配合し、目の充血には秦皮の煎液で洗眼する。
成分にはクマリン類のエスクリンやエスクレチン、およびタンニンが含まれる。ヨーロッパや北アジアに分布するセイヨウトネリコは、痛風の治療薬として知られる。
Fraxinus japonica モクセイ科トネリコ族 別名●タモノキ、タモ、サトトネリコ 生薬名●秦皮(しんぴ)
【ミニ図鑑】庭園や田の畔などに植えられるが、県内には同属のアオダモが自生する。家具や野球のバットなど材としても有用
▶花期 五~六月
(写真③:幹は径50センチ以上にもなる。樹皮は薬用に)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)