薬草の花
オキナグサ(翁草)【5月】
翁の頭に見立てて命名
長い白毛が密生したそう果(実が割れない乾いた果実)を翁(老人)の頭と見立てて、オキナグサと命名されたという。
多くの方言があるが、信州では「チゴチゴ」などの名前で知られている。
話はそれるが、平安時代の古文書にキクを翁草(おきなぐさ)と呼んだ記録があるという。
キクは長寿をことほぐ植物とされ、その意味から「翁草」があてられた。
本物のオキナグサは草丈の割に花が大きく、よく目立つ美しい植物である。
さらに、赤紫色の萼片は散ることがないので、長期間花を楽しむことができる。
葉のしぼり汁、かぶれる恐れ
生薬名は「白頭翁(はくとうおう)」で、本来は中国産のヒロハオキナグサの根茎である。
成分に種々の植物アルカロイドを含み、それらは鎮痛作用、強心作用、抗菌作用を持ち、専門家は様々な疾患に使う。
しかし、オキナグサは多くのキンポウゲ属の仲間と同様に毒草で、葉のしぼり汁を皮膚につけるとかぶれることもあり、一般に使用することは控えるべきである。
オキナグサは薬草として利用するより、その美しい姿かたちを楽しんで欲しい。
近年は減少の傾向
日当たりのよい、やや乾燥気味の草原に以前は普通にあったが、近年はあまり見かけなくなってしまった。
最近は、観賞目的で植えられた株が、半野生化した状態で見かけることがよくある。
「長野県レッドデータブック」では七百五十九種の植物が絶滅危惧種とされているが、オキナグサもそのひとつである。
種子を採取して播種すれば容易に発芽するのに、これほど少なくなってしまった原因のひとつに、生育地の環境の変化があげられている。
キンポウゲ科オキナグサ属(Pulsatilla cernua)
別名:シラガグサ、フデグサ
生薬名:白頭翁(はくとうおう)
花期:四~五月
【ミニ図鑑】同属のツクモグサは高山に白生し、淡黄色の花は美しい
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(著)栗田貞多男(著)