薬草の花
ヤドリギ(宿木)【4月】
高木の枝先に球形の特異な株
(写真①:春、枝先に柄のない黄色の小花を咲かせる)
他の樹木に半寄生して生活するために、「宿る木」 の意味をもつ常緑樹である。冬でも葉を枯らさないので、古来すぐれた生命力をもつ植物として尊ばれた。よく民間薬として用いられるのも、この生命力にあやかってであろう。北信濃では、ブナの木に生えているのをよく見かけるが、他のブナ科樹木の外に、ニレ科、カバノキ科、バラ科、クワ科などの高木に半寄生する。宿主植物が葉を落とした時期にも、ヤドリギだけは葉を落とさずに茂っているので、冬に見かけることが多い。ヤドリギに寄生された木は弱り、また弱った木ほど多く寄生している。あまりたくさんのヤドリギに寄生されている樹を見るのは痛々しい。
冬に開花し、晩秋に黄色い果実を結ぶ。種子の周囲に半透明の粘る汁があり、鳥の消化管を通過した後も粘液が残ったままで排出される。鳥に食べられすに残った果実は、そのまま次の開花時期まで残る。種子は、冬の渡り鳥のレンジャク、ヒレンジャクなどによって運ばれ、樹木の枝に付着して発芽する。その根は宿主木の木部に食い込み、そこから水と養分を吸収するが、自分でも光合成する。
(写真②:アカミノヤドリギは赤い果実をつける)
茎や葉を刻んで日干ししたものは「桑寄生(そうきせい)」と呼ばれ、煎液を腰痛や高血圧などの循環器疾患に用いる。成分はオレアノール酸などのトリテルペノイド、クエルセチンやアビクラリンなどのフラボノイド、さらにフラボノイド配糖体である。
ヤドリギの果実は淡い黄色だが、橙赤色の種はアカミノヤドリギと呼ばれる。別属のホサキャドリギは果実が淡黄色に熟し、冬の姿は美しい。
Viscum album subsp.coloratum ヤドリギ科ヤドリギ属 別名●ホヤ、トビヅタ 生薬名●桑寄生(そうきせい)
【ミニ図鑑】信州では高原のブナやミズナラ、 シラカバなどの枝先に、いくつもの株が見られる
▶花期 三~五月
(写真③:晩秋に熟す黄色い果実。別属のホザキヤドリギ)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)