薬草の花
スベリヒユ(滑莧)【3月】
※スベリヒユ(滑莧)は八~九月に花を咲かせます。
畑の雑草、かつては食用に
(写真①:夏の後半から径7ミリほどの花をつける。黄色い一日花)
父母から聞いた話では戦中、戦後の食糧難の時代にはよく食べたそうだ。試しに、畑に生えているスベリヒユを採ってきて、茹でて食べたら思いのほか美味しかった。ごくわずかな酸味があり、ぬめりがなんともいえない。山野草を食する時のポイントのひとつに、食材のぬめり感は重要な要素だと思う。スベリヒユは嫌われ者の雑草だが、こうして食べてみて親しみが増した。スベリヒユの「滑り」の由来は、厚手の葉っぱがつやつやしているから、あるいは食べたときのぬるぬるした食感から、こうつけられたという。スベリヒユ科で、ヒユ科のヒユとは無関係である。ちなみに、ケイトウやイノコズチなどはヒユ科の植物である。ヒユはインド原産で、もともとは野菜として栽培されたものだというが、ひょっとしたら、スベリヒユとヒユは同じ味かするのではないだろうか。
五弁の黄色いかわいい花が終わると、やがて結実する。小人の帽子のような円錐形のふたがとれると、内部の小さな種子がばらまかれる。南アフリカ原産の観賞植物のマツバボタンもスベリヒユ科だが、この特徴的な形状を有する。
(写真②:花が終わると結実し、米粒ほどの小さな実をつける)
全草は「馬歯莧(ばしけん)」と呼ばれ、中国や東南アジアでよく使われる。民間で、清熱解毒、消腫薬として虫毒、創毒、丹毒などに用いられる。また、細菌性下痢の治療、予防に効果かあるという。煎液を湿布薬にして、湿疹や接触性皮膚炎に使うこともある。成分に、ノルアドレナリン、ドパミンなどのカテコールアミンなどのほかに未知の抗菌物質が含まれるらしい。
Portulaca oleracea
スベリヒユ科スベリヒユ属
別 名●イハイズル、トンボグサ
生薬名●馬歯莧(ばしけん)
【ミニ図鑑】日当たりのよい道端や畑によく見られる。地面を這うように伸びる
▶花期 八~九月
(写真③:同じスベリヒユ科のマツバボタン。南アフリカ産)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)