薬草の花
コブシ(辛夷)【3月】
山の斜面に点々、鼻づまり解消に
春先、雑木の芽が膨らみ、斜面の林がうっすらと萌黄色に染まる様子は「山笑う」と表現される。この時期、里から見た山の斜面には白い花をたくさんつけた樹木が点々と見られ、コブシが開花したことを知る。普段気付かなかった所にもコブシの花を見つけ、意外にこの樹木が身近な山に多いことに驚く。木に近付けば、見上げるような高木に純白の大きな花が、青空をバックに無数ともいえるほど咲いている。花の径は六〜十センチほどで芳香があり、六枚の花弁は舌状に垂れ下がっている。
生薬名は【辛夷(しんい)】
生薬名は「辛夷」で、開花前の毛筆の筆先のような花蕾を採取し、それを日干ししたものである。鼻炎や蓄膿症の鼻づまりの症状に、乾燥した辛夷を煎じて使う。辛夷の主成分は、シトラールをはじめとする精油である。ヒトの体に対する辛夷の作用機序は、煎じ湯を飲む時に精袖が揮発して、その芳香が鼻腔粘膜に作用して鼻づまりを解消するものと思われる。
同属のタムシバ
ところで、市販されている日本産の辛夷のほとんどはコブシと同属のタムシバである。タムシバは北信地方の多雪地に多く、春先にコブシに似た花をつける。コブシの木は垂直に立ち上がり髙さ十五メートルほどの大木になるが、タムシバはやや斜めに立ち上がり樹高は十メートル以下である。タムシバは樹木全体が小ぶりで花数も少ないが、葉を噛むと独特な甘味と香りがする。
名の由来
コブシの名の由来は、秋に赤く実る果実の集まりが拳に似ることによる。辛夷は「辛い夷(えびす)」で、かじると強烈に辛く、赤みを帯びた果実を、赤ら顔の夷(未開人)に喩えたものではないだろうか。
Magnolia praecocissima モクレン科 モクレン属、別名●コブシハジカミ、ヤマアララギ、タウチザクラ、生薬名●辛夷
▼花期:三〜五月
【ミニ図鑑】モクレンと同じ科・同じ属で、花も一見似ている
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)