薬草の花
イヌサフラン【12月】
サフランとは別種、医学・植物学に多用途
(写真①:秋、葉がなくなってから径10センチほどもある美しい花を1~5花ほどつける)
和名のイヌサフランは園芸植物として親しまれ、 コルチカムとも呼ばれるユリ科の植物である。地中から花だけが立ち上がって咲く姿はアヤメ科のクロッカスやサフランとよく似ている。しかし、クロッカスやサフランは、葉と花が同時に立ち上がり、花はやや小ぶりであるのに対し、イヌサフランは春に葉だけが芽生え、それが夏に枯れ、秋に大型の花が咲く。全体は鮮やかな淡紅色で、花弁の先端が赤紫色に染まるその花姿は華やかである。
イヌサフランの種子や根茎にはフェナントレン誘導体に属するコルヒチンが含まれることで知られる。コルヒチンは植物の有糸分裂を抑制するため、発芽の過程でこの薬品で処理すると四倍体ができる。四倍体は通常の二倍体に比べ草丈が大きくなる。四倍体と二倍体を掛け合わせると、その子は三倍体となり、果実はつくるが種はできない。それを利用したものが種なしスイカである。余談だが、種なしプドウは、蕾の時期に花房をジべレリン液に浸ける処理で得られる。ジべレリンは多種類の植物成長ホルモンの集合物で、茎や葉の伸展成長を促し、単為結果を促進する。
(写真②:晩秋、農家の庭先や道沿いによく植えられている)
コルヒチンはヒトの病気の痛風の特効薬としても知られる。中枢性の知覚麻痺と末梢性の血管麻痺作用があり、さらに白血球の代謝活性を抑制し、尿酸の微細結晶に対する食作用を減少させるという。近年では、べーチェット病の眼症状にもつかわれる。植物の染色体には作用するが、動物のそれには作用しないためヒトのガンには効果がない。コルヒチンを始めとする、イヌサフランに含まれる化学物質は有毒であり、安易に用いてはならない。
Colchicum autumnale L.
ユリ科コルチカム属 別名●コルチカム
【ミニ図鑑】花も有毒。サフランと混同して食べてはならない
▶花期 十月~十一月
(写真③:別科のサフラン。南欧料理には欠かせない素材でもある)
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(文)栗田貞多男(写真)