薬草の花
ワレモコウ(吾木香)【10月】
止血や抗菌・抗火傷、多彩な作用
草原に咲くワレモコウを見ると、「もう秋が来ているのだな」と実感する。名前の響きが日本的で、そこはかとない哀愁が感じられるのも、人に愛されるゆえんであろう。
暗い紅紫色の球塊は果実のように見えるが、じつは立派な花穂(かすい)である。
一方、ワレモコウは草原性のチョウ、ゴマシジミの食卓である。
以前は県内の高原によく見られたワレモコウもゴマシジミも、リゾート開発などで棲家を奪われ近年すっかり減少してしまったが、不思議にスキー場のゲレンデではよく目にする。
生薬名は地楡(ちゆ)
漢名は「地楡(ちゆ)」で、葉の形が樹木の(アキ)ニレに似ていることからといわれる。
生薬の地楡はワレモコウの根茎や肥大根を乾燥したもので、古くから止血薬として利用されてきたようだ。
東洋では、慢性の下痢に伴う血便、痔出血、不正性器出血など下半身の出血に用いられる。
地楡の成分はタンニンとトリテルペノイドサポニンのサンギソルビン、チユグルコサイドなどで、止血作用のほかに抗菌、抗火傷、抗湿疹作用が報告されている。
ワレモコウの名の由来
ワレモコウの名の由来には、「吾木香」説の「葉が木香(もっこう)(香料、インド産、キク科の植物の根)の香りがする」と、「割木瓜」説の「花の形が紋所の木香(もっこう)の紋を割ったような形だから」の二説がある。
さらに、日本の古い文献によると地楡の和名として「アヤメ(傷)タム(矯む)」があげられており、昔から止血薬として利用されてきたことがうかがえる。
バラ科ワレモコウ属(Sanguisorba officinalis)
生薬名:地楡(ちゆ)
花期:八〜十月
【ミニ図鑑】同属には北アルプス北部にのみ生育するカライトソウやトウウチソウがある
出典:「信州・薬草の花」(クリエイティブセンター)
市川董一郎(著)栗田貞多男(著)