生薬の話
Well-beingについて
木曽谷では、里にも雪が舞い、青空と凛とした空気の美しい冬が到来しています。
11月14日に淡路島で株式会社パソナグループ様が開催された「Awaji Well-beingイノベーションフォーラム2024」に出席させていただきました。国内外の様々なご登壇者のお話を伺い、Well-beingとは、Well-beingの実現された人、社会、地球の在り方とはについて多くの学びと気づきをいただきました。とても豊かで温かな気持ちを感じる機会となりました。本フォーラムでは、心に残る多くのお話がありましたが、その中でも最も印象に残るいくつかのことを挙げさせていただきます。
Well-beingとは
まず、Well-being(ウェルビーイング)とは何でしょうか?この言葉が使われるきっかけは、そもそも健康とは何か?にさかのぼります。
1946年に設立されたWHO(世界保健機構)は、1948年に発効したWHO憲章前文において、健康を次のように定義しています。
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(公益社団法人日本WHO協会訳)」
この状態を、英語の原文では「well-being」と表しています。
また厚生労働省では、次のように定義しています。
「「ウェル・ビーイング」とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念。(厚生労働省)」
Well-beingとは、単に身体的に良好であるのみならず、心身ともに満たされ良好であることを表す概念と言えます。
よく生き、よく死ぬ(Well-being for Well-dying)
フォーラムの基調講演は、大阪大学名誉教授、大阪警察病院院長の澤 芳樹先生より「Well-beingの実現に向けて」のお話がありました。ご自身の生い立ちから心臓外科医としての歩みとともに、「現代社会は医療技術の革新などにより寿命が飛躍的に延び、物質的に豊かであることから死が身近にない、しかし人は生物である以上必ず死ぬ、生と死は隣り合わせであり、死ぬことを意識して初めていのちの尊さを知る、Well-beingとはどうやってWell-dyingに向かうかである、すなわちWell-being for Well-dyingである」というお話がありました。
京都妙心寺の松山大耕副住職が「人間は生物のなかで、唯一自分が死ぬということを知っている存在である。死を知るがために人間は宗教を持った」とお話されていたそうです。鎌倉時代は平均寿命が20代半ばであり、この時代に多くの宗教家が輩出されたそうです。
生と死は隣り合わせであると意識した時に、人は限りあるいのちを輝かせようと考え、身体のみならず、心の安寧を求め、生きる意味を見出そう、との動機が生まれるのではないかと思います。澤先生は、Well-beingは「部分最適と全体最適のバランスが取れた状態」でもあるとお話いただきました。一人ひとりが自分らしく生き、社会とつながり、未来のために良い世界をつくろうと微力でも努力することが、Well-beingにつながるのだと感じました。澤先生は「人間は戦争などしている場合ではない、いのちは死から考えるべき、いのちを大切にしましょう」とのお話でご講演をしめくくられました。このことも私たちが考えるべきことではないかと思います。
避けることのできない困難を直視し、感謝して生きる
午後のスペシャルトークにて、スタンフォード大学医学部精神医学行動科学科心理学者のスティーブン・マーフィ重松先生がご講演されました。マーフィ重松先生は「スタンフォード大学いのちと死の授業」の著者としても知られています。温かな優しい語り口調で、先生の提唱される「ハートフルネス」についてお話いただきました。
「人生には避けることのできない困難があり、この現実を直視する覚悟を持たなくてはならない」ということです。しかしこの時に「ハートフル」な生き方をつらぬくことが困難を乗り越える力になるそうです。ハートフルネスには、初心、弱さ、真実性、つながり、深く聴くこと、受容、感謝、奉仕の8つの柱があるということでした。ご講演を通して、ご自身とおばあさまとの個人的なやり取りのお話をしてくださいました。おばあさまは、周りの方々から尊敬される素晴らしい方で、いつも「ありのままのスティーブンが好きだ」とおっしゃっていたそうです。また111歳でおなくなりになる前に「死を恐れてはいけない」「全て大丈夫」とおっしゃったそうです。これらのエピソードとともに「人間は一人残らず誰かに愛されていることを忘れてはならない、人には生きる目的がある、死を恐れるのではない、感謝をして生きることが大切だ」と会場に語りかけられました。私自身も、今は亡き祖母を訪ねるたびに「よく遠くから来たね、ありがとう」「元気でやっているかね、身体に気をつけてね」と言われたことを思い出しました。学業や仕事で成功しているか否かなど関係ない、ありのままの私が元気でいることだけを願ってくれていた祖母のことを思い出し、胸が熱くなり涙が出てきました。祖母の言葉は若かった私の心に、大きな力を授けてくれ、自分の世界で思い切り羽ばたく勇気を与えてくれたのでした。これは亡くなった今も変わりません。
Well-beingについて考える
お二人のご講演者ともに、生と死は隣り合わせであり、これを意識することが、生きていることへの感謝、そして周りの自然や人への感謝につながり、より良く生きることができるとお話いただきました。また、ありのままの自分を受け入れ、自分らしく生きることができ、社会の誰かとつながり、温かな心の交流を持ちながら生きることが、人の幸せにつながるのだと感じました。
弊社のお客様はご年配の方も多いです。病気でつらい思いをされていても、弊社の百草丸や普導丸を補助的に服用し、より良く過ごそうと、飲み合わせや服用方法についてお問い合わせをくださるお客様があり、私どもが学ばせていただくことも多いです。
本フォーラムへの出席を通し、Well-beingとは、身体だけでなく心が健やかであること、人と人とがつながりあい、互いに温かな心の交流を持つこと、自然の恵みや周囲の人に感謝し、より良い社会をともにつくり上げようと互いに努力することを示すのだと学びました。
パソナグループ南部靖之会長が「こころ、からだ、きずな ~「ありがとう」の響き合う社会へ~」とお話されています。「ありがとうの響き合う社会」とはとても素敵な言葉だと思います。今もこの言葉が共鳴するように心の中に残っています。
Well-beingの実現を目指して ~日野製薬の取り組み~
日野製薬の経営理念の一つに「健康長寿に寄与する良質な製品とサービスの提供」があります。この「健康長寿」とはどのような状態であろうかと常々考えてきました。健康は、やはり身体的、精神的、社会的に良好な状態を示すと思います。活き活きと自分らしく毎日を暮らし、その結果、天命を全うすることが、健康長寿ではないかと思います。ということは、健康長寿とはWell-beingそのものではないか、またはWell-beingな状態で毎日を生きた結果の満たされた人生のことではないかと思います。
弊社は単に薬を製造販売するのみならず、お客様のWell-beingのために貢献していかなくてはなりません。お客様お一人お一人に寄り添い、その方らしく生きられるお手伝いをすること、お客様が心身ともに健やかな毎日を過ごされるためにお支えすることが、私どもの役割であると感じます。自然豊かな信州木曽の地、人々のお陰で社業を営む私どもは、まずそのことに感謝し、自然の恵みを用いて健やかに暮らす先人の知恵を、多くのお客様へお届けしていかなくてはなりません。
天然の生薬を用いた薬は、病気になった後のみならず、未病の状態での病気の予防、セルフケアに役立ちます。このことは、多くの皆様が自分らしく生きるための支えになると思います。また弊社では、キハダの植樹、保育、皮むきなどの活動を行っています。これに賛同し参加いただく方々は、皆様とても楽しそうにしてくださいます。多くの方々とご一緒にこれらの活動を行い、自然や先人の知恵とふれあう機会や、人と人とのつながりを醸成し、豊かで素晴らしい未来をつくりあげるため少しでも貢献していきたいと思います。
2025年以降、日野製薬では、Well-beingの実現を念頭に、社員一同社業に取り組んでまいります。今年も残すところわずかです。多くの皆様に大変お世話になりましたことを心から感謝申し上げます。来年も素晴らしい一年となりますようお祈りしております。
日野製薬株式会社
代表取締役社長 石黒和佳子
出典:
株式会社パソナグループ「Awaji Well-beingイノベーションフォーラム2024」
公益社団法人日本WHO協会 「世界保健機関(WHO)憲章とは」
厚生労働省 「雇用政策研究会報告書 概要」
澤 芳樹氏 ご講演資料
スティーブン・マーフィ重松氏 ご講演資料・「スタンフォードの心理学授業 ハートフルネス」