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生薬の話

キハダとともに歩む

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 新年明けましておめでとうございます。健やかにお正月をお迎えのことと存じます。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

  

 昨年11月、京都 染司よしおかの吉岡更紗さんの工房にて、キハダ染めの手ほどきを受ける大変貴重な機会をいただきました。吉岡さんは、近代化に伴い化学染料が多く使われていた染色の世界において、古来の天然染料を用いた染めの技法を再興されたおじい様、お父様の跡を継承され、染司よしおかの六代目当主でいらっしゃいます。木々が茂り、そこだけ現代の忙しさや喧噪から免れたような静かなたたずまいの工房をお訪ねし、生涯にまたとない時を過ごさせていただきましたこと、心から感謝しております。

  

 吉岡さんから教えていただいたキハダ染めの技法は驚くものでした。キハダの内側の樹皮であるオウバクは美しい黄色をしています。古くから薬としても染料としても用いられてきました。このオウバクを細かく裁断し、熱水で煮出したエキスの甘い香りが工房内に漂っていました。その濃いエキスにそのまま布をつけると濃く染まると思いきや、そうではありませんでした。濃いエキスを湯に放ち、薄め、その中に布をくぐらせ、何度も指でくくり、繊維の中に黄色を浸透させる方法を教えていただきました。煮物を炊く時も、野菜をいきなり濃い醤油の中に入れても表面にしか味がつかないですよね、とのお話に合点がいきました。「ミルフィーユのように色を重ねていく」という吉岡さんの表現に染色の奥深さを感じました。

  

 以前吉岡さんが、信州木曽の開田高原のキハダを用いて染色をしてくださったことがあります。その作品は、あっと驚くような美しい鮮明な黄色をしていました。開田高原でキハダの木を伐倒し皮むきをさせていただいた、まさにその時の鮮明な黄色、命の輝きそのものが蘇ったようで、とてもうれしく感じました。あの黄色は、まさにミルフィーユのように積み重ねられた色によるもの、内から外へ輝き出る美しさだったのだと思いました。

  

 そして、良いものを作り出すために、手間と時間を惜しんではならないことを感じました。一枚の布を染めるために膨大な時間をかけられていることを、今回間近に拝見させていただきました。その過程を経ないと生み出されないものに、日々向き合われているのは本当に大変なことと思います。凛として取り組まれるその姿勢には、自然のものへの深い畏敬の念、ものづくりへの確固たる信念があるように感じました。自然のものと向き合う時の心の在り様がいかなるものであるべきか、改めて教えていただいた気持ちがしました。

  

 この日工房にて、奈良法隆寺に伝来する「百万塔陀羅尼経」のことを教えていただきました。麻紙に「根本」「相輪」「自心」「六度」の四種の陀羅尼経が印刷され、それぞれが三重の木造の小塔に納められているそうです。奈良時代の恵美押勝の乱の後、孝謙天皇が世の平静を願い、百万塔もの小塔を当時の十大寺(大安寺・元興寺・弘福寺・薬師寺・四天王寺・興福寺・法隆寺・崇福寺・東大寺・西大寺)に納められたそうです。年紀のある印刷物としては世界最古とされる陀羅尼経は、キハダの黄色で染められていたそうです。その目的は、防虫ではないかとされているそうですが、定かではありません。

  

 このように古くから用いられていたキハダは、本当に大切なものと感じます。キハダを用いて百草、百草丸などの薬づくりをさせていただいていることは、大変光栄なことであり大きな感謝の気持ちを覚えます。そして、キハダを用いた先人の知恵を未来に継承していかなくてはならないと改めて感じます。

  

 弊社では2024年に「キハダプロジェクト」を開始しました。キハダの樹皮オウバクのみならず、オウバク残渣、葉、実、材など全ての部分を余すところなく活用し、多くの方々のご健康長寿のお役に立ちたいと考えています。この時につくり出す新たな製品は、決して現代の私達が、新たに生み出すものではないと感じています。自然とともに生きていた先人が既に知っていたキハダの良さ、活用方法を知り、学ばせていただき、現代に蘇らせる努力をすることに他ならないと思います。まさに、温故知新。学ぶことが沢山あることは大変有難いことです。

  

 今年も、キハダとともに歩む新たな一年を過ごしてまいります。日頃よりご支援、ご協力いただいている多くの皆様に感謝申し上げ、皆様のご健康長寿に寄与する企業であり続けられるよう、社員一同研鑽してまいります。新しい年が皆様にとって素晴らしいものでありますようお祈りしております。

  

日野製薬株式会社

代表取締役社長 石黒和佳子

  

出典:日本のこころ40 創刊十周年記念号 別冊太陽 和紙 構成 吉岡幸雄氏

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