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生薬の話

キハダを用いた土壁、漆喰壁づくり

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 いつまでも暑さが続いておりますがいかがお過ごしでしょうか。

「日野百草本舗 奈良井店」は8月11日に本格的にリニューアル・オープンいたしました。多くのお客様にお越しいただいておりますこと、心より感謝申し上げます。日野百草本舗 奈良井店は、中山道奈良井宿の中央付近にあります。店頭でお客様とお話させていただくことは、何より楽しく、心も弾みます。百草・百草丸に初めて出会われ、興味深くご説明を聴いてくださる方、よくご存じでリニューアル前から何度もお越しいただいている方、普導丸(ふどうがん)の銀色をきれいですねとおっしゃってくださる方、百草丸専用スプーンを試用し喜んでくださる方など、お一人お一人とのひと時が楽しく、思い出深いもので、またお客様のお話から大きな学びをいただいております。

  

 奈良井店は「自然の恵みで健やかに」をテーマとしています。その空間にいらっしゃるだけで心身の健やかさ、心地よさを感じ、また来たいとお感じいただける拠点でありたいと考えています。またキハダを余すところなく利活用することを願い、弊社が昨年開始した「キハダプロジェクト」の実践拠点でもあります。キハダはミカン科の落葉高木で、その周皮を除いた樹皮である生薬オウバクは、百草、百草丸の主成分です。しかし国内産のオウバクは年々採取量が減少しています。キハダの樹皮オウバクはもちろんのこと、葉、実、材などキハダの全ての部分を余すところなく活用し、お客様の健やかな毎日のお役に立ちたい、またキハダを多くの方々に知っていただくことでキハダの植樹、保育、利活用の和を広げたいと考え、様々な製品・サービスを開発しご提供しています。

  

 その一環として、奈良井店の壁には、キハダをふんだんに使いました。古民家である奈良井店の壁は、全て、土壁または漆喰壁です。壁にキハダ??どういうこと?とお思いの方もいらっしゃると思います。日本の神社、仏閣、城などの屋根・壁・床材の材料メーカー様である深谷配合粘土工業様、そして、木曽の左官職人である笹川左官様をはじめとする多くの方々に、多大なご尽力をいただき、実現しました。恐らく世界で初めてのキハダを用いた壁であると思います。詳しくご紹介します。

キハダを用いた壁とは

 奈良井店は、中山道沿いの古民家で、「出梁造り(だしばりづくり)」の建築様式が特長です。間口が狭く、奥行は深い、いわゆるうなぎの寝床のような細長い形状をしています。中山道に面した表は重厚感にあふれた雰囲気ですが、奥に進むと中庭があり、光に満ちています。今回の改修工事は耐震強化や老朽化部分の補修を目的に開始しましたが、同時に、木曽谷らしい光と風の通る空間を実現したいと考えました。この時、壁は重要な役割を果たします。

中山道に面した表部分は従来通り土壁に、中庭や奥へと進む裏部分は、光を明るく受け止める漆喰壁とすることを決めました。

これらの壁に、キハダ残渣(百草、百草丸の製造後に残るキハダ樹皮のこと)を粉砕したもの、または、キハダ樹皮から抽出したエキスを練り込みました。キハダは古来、黄色の染料としても用いられ、美しい黄色をしています。また抗菌作用、防虫作用があることが古くから経験的に知られています。様々な黄色による温かみのある壁が、大きく3種類できました。

  

●キハダの土壁(土色)crude_drug_250901_narai_wall1.JPG

 土壁とは、土に藁(わら)や砂などを混ぜて水で練ったものを塗り固めて作った壁のことです。今回、藁の一部をキハダ残渣粉末に替え、練り込んでいただきました。土壁に藁が使われるのは、藁についた菌が発酵し、つなぎの役割を果たし、強度、粘り気や滑らかさが向上するためということです。キハダ残渣の場合もつなぎの役割として申し分ないとのご評価を、材料メーカーの方からいただきました。

 黄色のキハダ残渣を土壁に混ぜても、ほぼその存在は見えません。しかし全体のトーンが明るさを増しました。また、キハダ残渣以外に、赤い瓦の粉末も配合しました。色味を明るく調整することに加え、調湿効果をアップするためです。いずれも従来であれば廃棄されるものを使いました。

 今回の土壁は、日や時間帯によって様々色が変わるのが不思議です。湿度の高い雨の日は水分を吸って色が濃くなり、晴れて乾燥している時は水分を放出し薄くなります。色からも天然のものの良さを感じています。

  

●キハダの漆喰壁(クリーム色)crude_drug_250901_narai_wall2.JPG

 漆喰壁にも、キハダ残渣を練り込みました。この作業は、とても楽しいものでした。事前に漆喰の原料とキハダ残渣との配合割合を様々検証し、決めていたにも関わらず、結局は、現場で左官屋さんと「えいや」で配合割合を決めました。木曽の人は、女性のことを「姉さ」と呼びます。「姉さ、〇日に漆喰をやるで、来てくれんか」と左官屋さんに言われ、現場に行くと、大きな練り機の中に、漆喰を大量に準備して待っててくださいました。この状態で漆喰の量を厳密に測って、残渣を混ぜるだなんて無理!ということで、キハダ残渣をバケツ1杯加えて混ぜて様子を見て、2杯加えて混ぜて様子を見て・・・を行い、だいたいこんなもんかね、とその場で配合する割合を決めました。その結果、とても落ち着いたきれいなクリーム色の壁が出来上がりました。左官屋さんも良い色だね、と楽しんでぬってくれました。とても温かみがあって気に入っています。

  

●キハダの漆喰壁(黄色)

 中庭に面した壁の一面だけ、濃い黄色の漆喰壁としました。キハダの黄色の美しさを前面に出した壁を作りたいと考えました。このためには固形物である残渣を混ぜるより、濃いエキスを混ぜた方が良いことは事前の検証でわかっていました。しかし濃いエキスをどうやって大量につくるか、散々悩んでいたところ、弊社の製造部のGさんと研究開発室のIさんが良い解を見出してくれました。そして材料メーカーさんへエキスをお送りすることができました。しかしその後、今度は、材料メーカーさんの方で、黄色の壁づくりに散々悩むこととなりました。天然の黄色を維持した漆喰壁をつくることは容易ではありませんでした。何度も検証を繰り返し、キハダ以外に配合する原料の見直しを行って、天然原料による黄色の壁を実現していただきました。大変感謝しています。黄色の壁は、古民家にとても似合い、大変気に入っています。

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なぜキハダを用いた壁づくりを行ったか?

 キハダを土壁、漆喰壁に配合した理由は、上記の通り、キハダは古来、黄色の染料としても用いられ、美しい黄色をしていることに加え、抗菌作用、防虫作用があることが古くから経験的に知られていることが関係しています。そもそも土壁、漆喰壁は、調湿、抗菌、消臭などの効果があるとされ、その良さが近年見直されています。良いものである土壁、漆喰壁に、良いものであるキハダを混ぜたら、更に良いものができるのではないか?発想は単純です。しかしキハダの可能性を追求したいと考えました。

 正倉院の文書は、キハダの黄色で染められています。これは大切な仏教の経典などが虫食いにならないようにとの先人の知恵によるものです。また、信州木曽の伝統薬である百草、百草丸は、キハダが主原料であり、古くから胃腸薬として多くの方々にご愛用いただいてきました。先人の知恵や苦労のお陰で現代に伝わる薬です。その良さを活かしたいとの一心で壁づくりに取り組みました。キハダを余すところなく利活用したいと考え実施しているキハダプロジェクトの取り組みの一つとなりました。

キハダを用いた壁ができるまでの道のり

 キハダの土壁、漆喰壁づくりは、数年前から検証を開始しました。その初めての実装の場所が、弊社の奈良井店となりました。その実現にあたり、多くの方々のご協力をいただきましたこと、心から感謝しております。また弊社社員が本当によく頑張りました。

 キハダ残渣は、百草、百草丸の製造後に残る樹皮オウバクです。湯で煮出したオウバクは濡れた状態で製造工程から出てきます。今回奈良井店に実装したのは、国内産のオウバクです。弊社では例年冬に、国内産オウバクを用いた百草、百草丸づくりを行います。真冬の極寒の日、雪の降る中、製造工程から出てきたほかほか湯気の立つキハダ残渣を、一枚一枚乾燥用の板に乗せました。また、晴れた日に天日干しで乾燥するため、零下10度を下回る早朝に、シートに残渣を広げ、夕方にしまう作業を何日も繰り返しました。朝カチコチに凍った残渣を広げると、日中太陽のあたる時間帯に少しだけ乾きますが、夜になると残った水分で再び凍り、乾燥は遅々として進みません。それでも、その作業を何度も繰り返して、乾燥を進めました。そうこうして、ようやく乾燥したキハダ残渣を粉砕する作業も容易ではありませんでした。黄色の粉塵で全身真っ黄色になりながら、粉砕作業を行い、大きさをそろえるための篩過作業を行いました。これらを懸命に行った社員の頑張りを思うと涙が出てきます。そのお陰で実現したキハダの土壁、漆喰壁です。大変誇りに思います。

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最後に

 奈良井店において、空間は人の心身の健やかさに大きな影響を与えることを実感しています。キハダの土壁、漆喰壁をご覧いただくお客様から「薬の壁ですね」「温かな色合いですね」「心地良いですね」とのお声をいただき、大変励みになります。まだまだオープンしたばかりで発展途上の日野百草本舗 奈良井店です。今後ともお客様がご来店を通して健やかさをお感じいただき、お楽しみいただける拠点となりますよう励んでまいります。

 壁の実際の色や風合いをご覧になられたい方は、ぜひともお出かけくださいませ。百草、百草丸などの「薬」は勿論のこと、キハダを用いたソーダやアイスクリームなど「食」の観点からもキハダを楽しんでいただけるよう、様々な製品・サービスをご提供しております。

   

   日野百草本舗 奈良井店

   長野県塩尻市奈良井492 

   営業時間:10時~16時、定休日:水曜日

   https://hino-seiyaku.com/store/narai/

    

今年は秋も暑さが続くようです。どうぞくれぐれもお身体にご自愛されてお過ごしください。

    

日野製薬株式会社

代表取締役社長 石黒和佳子


日野製薬オンラインショップ

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