>>会員登録いただくと生薬ブログ最新情報をメルマガにてお届けします!メルマガ登録で更に300ポイントプレゼント!

生薬の話

石清水八幡宮様とキハダ

crude_drug_240701_kihada.jpg

 キハダの皮むきの季節が訪れています。キハダの周皮を除いた樹皮である生薬オウバクは、百草、百草丸などの生薬製剤の主原料です。キハダは、木が最も水を吸い上げる6月~7月の梅雨時が皮むきの適時とされています。この時期は、樹皮と木部の間の形成層が、盛んに分裂している時でもあり、細胞が柔らかく、比較的容易にむくことができます。木曽では古くから、キハダは土用の丑の頃に皮をむけという教えもあります。今年も様々な方がキハダをご提供くださり、皮むきの機会をいただいておりますこと心より感謝申し上げます。

 6月29日、30日には県内外から多くの方々にご参加いただき、開田高原にてキハダ皮むきを行いました。みずみずしく鮮明な黄色に驚かれ、こんなに黄色いの?自然の色とは思えない!皮むきの音がすごい!香りがする!と歓声を上げながら、夢中になって皮むきに取り組んでくださいました。今年は新たな取り組みとして、キハダの葉の採取も行いました。一枚一枚、虫食いのない葉を丁寧に選別し、収穫をしてくださいました。暑さ、そして雨の中、懸命に収穫作業に取り組んでいただいた皆様に、心から感謝しております。今、一度しかない、キハダの命の輝きと向き合う時を、皆様と共有させていただいたような気がしました。ものには、それを取り扱った人の心が宿ると思います。今回収穫した樹皮、葉、そして材には参加いただいた皆様のお心が宿っているようです。これらを大切にし、活かしきることを目指し、心を込めて薬づくり、そしてものづくりを行ってまいりたいと考えています。

 

 さて、京都府八幡市の石清水八幡宮様では、毎年9月15日に「石清水祭」を斎行されます。石清水祭の起源は、八六三年、清和天皇の時代の「石清水放生会(いわしみずほうじょうえ)」に遡ります。「諸々の霊を慰め供養するため、男山の裾を流れる放生川のほとりで生ける魚鳥を解き放つ法会を催してほしい、との八幡大神様ご自身の願い=神願に基づくもの」ということです。石清水祭は勅祭です。勅祭とは、「天皇陛下の御使いである勅使が参向され、天皇陛下からのお供え物(弊帛)を奉献される祭典のこと」です。石清水祭は、京都の賀茂祭、奈良の春日祭とともに、旧儀による三代勅祭の一つとされています。

  

 石清水祭において、キハダの樹皮であるオウバクを人型に切り取り、目や鼻を書き、祓いのために用いられていると伺いました。生きとし生けるものの平安と幸福を願い、長い年月に亘り連綿と続けられてきた神事に、オウバクが用いられていることに大変な驚きと感銘を受けました。オウバクを主成分とする百草、百草丸づくりを行う弊社にとって、オウバクは大変身近なものであり、誇らしく、また、感慨深い思いがいたしました。

 

 石清水祭になぜオウバクが用いられているのか、石清水八幡宮様にお伺いいたしました。すると延喜式に遡るとのご回答をいただきました。延喜式は平安時代中期に律令の施行細則をまとめた法典です。延喜式に、オウバク(黄檗)が古くから祓いに用いられていたことを示す記載があると教えていただきました。

 

【延喜式 巻第五(神祇五 斎宮)】

祓の料

五色絁各二尺、安藝木綿大三兩、木綿大四兩、麻大一斤、鍬四口、鐵人像二枚、荒服の料に調布一段、筥二合、酒・米各一斗、鰒・堅魚各二斤、海藻四斤、腊四斤、鹽四升、水戸一口、坏・瓫各四口、柏四把、匏二柄、黄蘗四枚、食薦二枚、輦籠一腰、祝詞の料に庸布二段、短帖一枚、夫二人、朸二枚。

出典:神道大系 古典編十一 延喜式(上)

 

 延喜式の編纂された古い時代に、オウバクにどのような言われや経緯があり、祓いに用いられることとなったのか大変興味深く感じます。オウバクは、古くから胃腸薬や外用薬として民間療法に用いられ、またその黄色は染料としても用いられてきました。オウバクの多岐にわたる薬理作用や、黄色の美しさは、古い時代においても人々を魅了していたのではないかと想像すると、オウバクを通して昔の人とつながるような気持ちがいたします。このたびオウバクの新たな一面を知り、改めてその魅力に気づかせていただきましたこと、心より感謝しております。

 

 キハダの皮むきは、まさに生きているものの命をいただくことへの畏れ、有難さを感じる時です。生きとし生けるものの平安と幸福を祈願する精神は、私どもの社業の根底に流れていなくてはならないと感じます。今まさに生きていたキハダを伐倒しその皮を用いて薬づくりを行う私どもは、自然の恵みに感謝し、多くの方々のご健康維持のお役に立つ良質な製品をお届けするため、不断の努力を続けてまいりたいとの思いを新たにしています。

  

日野製薬株式会社 

代表取締役社長 石黒和佳子

  

出典:石清水八幡宮社務所発行 「勅祭石清水祭儀註」

   石清水八幡宮社務所発行 「勅祭石清水祭」

   神道大系編纂会 発行「神道大系 古典編十一 延喜式(上)」


日野製薬オンラインショップ

>>会員登録いただくと生薬ブログ最新情報をメルマガにてお届けします!メルマガ登録で更に300ポイントプレゼント!