生薬の話
薬用植物の栽培がはじまります
3月に入り、日差しがぐんと明るく、温かくなりました。朝晩はまだ零下のことが多いですが、青く澄んだ空に、山の雪の白さが映えて、とてもきれいです。心も明るく、弾むような気持ちとなります。厳しい寒さが続いた分だけ、少しの春の兆しがうれしく、眠っていた身体も起きていくような感覚を覚えます。
春の日差しを感じると、そろそろ畑が始まります。準備を始めようと自ずと思うのが不思議です。毎年の習わしであることに加え、人間の自然な身体のリズムなのかもしれません。
弊社では、2021年から本社の所在する木祖村の村内に山林や畑をお借りして、薬用植物の栽培を行っています。百草はオウバクのみの単味の生薬製剤であり、日野百草丸にはオウバクをはじめとする7種類の生薬、普導丸にもオウバクを含む7種類の生薬が配合されています。弊社では、これらの生薬の薬用植物を、自分たちの手で育てたいと考えています。いずれ原料として使用できるほどの量を栽培できると良いと思いますが、それは遠い、遠い将来の夢であり、今ははじめの小さな一歩を踏み出したばかりの状態です。まずは、弊社製品に配合する生薬の薬用植物が、どのような種から育ち、どうやって大きく成長し、花や実をつけるのか、そして根・茎・葉・花のどの部位が生薬として用いられるのかについて、栽培を通して自ら知ることを目指しています。社員一人一人が、知識としてだけでなく、実際の経験から五感を使って生薬について学び習得することが、より良い生薬製剤づくりにつながると考えています。まさに千里の道も一歩からです。
今年は次のような薬用植物を栽培しようと考えています。
・キハダ(生薬名:オウバク)
・センブリ
・ゲンノショウコ
・トウキ
・ジオウ
さて、日本において生薬の自給率は現在あまり高くありません。日本漢方製薬製剤協会の調査では、2018年度に協会会員会社が使用した生薬の種類および総使用量は264品目で26,391トンですが、このうち日本産は10.4%にとどまります(*)。薬用植物を生薬として用いるためには高い品質基準を満たす必要がありますが、栽培技術が確立されていない品目も多いです。更に収穫までに数年要する薬用植物もあり、採算性の観点からも従事する生産者が少ないのが現状です。自給率の向上は大きな課題ですが、現在産官学を挙げて様々な取り組みが行われています。
弊社の周辺にも休耕地が増えてきました。休耕地の利活用と薬用植物の栽培を掛け合わせて何かできることはないだろうか、と思います。しかし一長一短にできることではありません。これまでの少ない栽培経験からでも、同じ植物についても、木曽の土壌や温度・湿度に合わせた栽培方法を見出していく必要があること、一定の品質を維持しながら量を収穫するためには、多くの試行錯誤が求められることを実感しています。まだはじめの一歩を踏み出したばかりの弊社では、まずは地道に栽培に取り組み、学びを得ることが重要と思います。目標は高く休耕地の活用、生薬自給率の向上にいずれ貢献したいとの大志を抱きながら、春の訪れと同様に、一歩ずつ、少しずつ前へ進み、出来ることを行っていきたいと考えています。
*出展:日本漢方生薬製剤協会「日本における原料生薬の使用料に関する調査報告(2)」および「日本における薬用作物の栽培の
現況について」