>>会員登録いただくと生薬ブログ最新情報をメルマガにてお届けします!メルマガ登録で更に300ポイントプレゼント!

生薬の話

キハダのことから学ぶ森林と林業

crude_drug_230501_kihada.jpg

 5月に入りました。雨が降るたびに、木々に新芽や蕾が噴き出て、萌黄色に変わりゆく山の輝きは大変美しく、心も弾む季節が訪れています。

 

 木曽谷は、総面積の約93%を森林が占めています。森林は常にそこにあり、日々その様子を変えて目を楽しませてくれます。またその中に入れば命の輝きや香り、木々の間を通る風の音や鳥のさえずりが心を優しく癒し、山菜やキノコなどの楽しみをもたらし、厳しいながらも様々な恵みを与えてくれます。木曽において古くから盛んであった製材、木工、漆塗りなどの産業も森林によるものです。

 百草、百草丸の主成分である生薬オウバクはミカン科の落葉高木キハダの周皮を除いた樹皮です。これらの生薬製剤も、森林の恵みによってもたらされる薬であると言えます。しかし、昨今、国内産の生薬オウバクの流通量が年々減っています。木曽のみならず全国的に減少の傾向を呈しています。その現実を目の当たりにし、なぜなのだろうか、と考えるようになりました。オウバクの生産量が減少していることは、日本の森林と林業の実態と密接な関わりがあると考えられます。森林と林業について知り、学びを深めることが、オウバクの現状を認識することにつながると考えました。森林、林業について、浅学ながらこれまでに調査・学習した内容をまとめました。

  1. 森林のもたらす恩恵

森林はどのような恩恵をもたらしてくれるでしょうか?

古くから、文明や文化は、豊かな森林と水の資源のもと生まれ、発展を遂げてきました。河川の周りに都市が繁栄し、その水は豊かな森林からもたらされます。

  

林野庁の「令和3年度森林・林業白書」では、森林は多岐にわたる機能を有するとされています。

  

<森林の有する多面的機能>

① 山地災害防止機能・土壌保全機能

② 水源涵かん養機能

③ 地球環境保全機能

④ 木材等生産機能

⑤ 文化機能

⑥ 生物多様性保全機能

⑦ 保健・レクリエーション機能 等

  

森林は水をきれいにし貯え、豊かな水資源を提供するのみならず、水害などの自然災害の防止、豊富な栄養分の川や海への運搬、CO2の吸収による温室効果ガスの排出量削減など、地球の営みになくてはならないものです。昨今は森林の放つ香りや音が人を癒すことも注目されています。

豊かな森林なくして、豊かな人の暮らしはない、と言えるほど重要な存在です。上記白書にも「森林は(中略)国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に大きく貢献している。このような機能を持続的に発揮していくためには、森林の適正な整備・保全を推進する必要がある。」と書かれています。

日本の森林について

では、日本には森林がどの程度あるのでしょうか?

  

●日本の森林面積

日本は国土の約66%が森林です。日本の森林面積は、平成29(2017)年3月末現在で2,505万haであり、国土面積3,780万haのうち約3分の2を占めています。日本の森林面積は長年に亘りほぼ横ばいで大きく変わっていません。世界では、森林面積は約3割であり、年々減少していることを考えると、日本は豊かな森林に恵まれていると言えます。

  

●木の蓄積量

しかし一方で、木の蓄積量は年々増加しています。木が成長することで蓄積量が増えていきます。森林蓄積は人工林を中心に増加しており、平成29(2017)年3月末時点で52.4億㎥となっています。平成24(2012)年時点で49.0億㎥であったことから、1年間の増加量を平均で単純計算すると、約6,800万㎥ずつ増えていることとなります。

  

日本の森林の約4割は人工林であり、その多くは終戦直後や高度経済成長期に造林されたものです。その半数が一般的な主伐期である50年生を超え、本格的な利用期を迎えています。しかしその利用が進んでいないことも示しています。

日本の木材の需給動向

上記の通り、日本の森林は、1年間に単純計算で約6,800万㎥程度、蓄積量が増えています。木がどんどん成長し大きくなっている状態です。では、これをどの程度利用しているのでしょうか?

  

●木材需給の状況

日本の木材の需要、供給の動向は下記の通りです。令和2年(2022年)の需要量は7,444万㎡です。蓄積量の約6800万㎥を少し上回る程度であり、数字だけ見れば、需要をほぼ満たすことができるほど、自然の成長による蓄積量があることを示します。

  

<木材需給動向(令和2年(2020年)>

需要量:7,444万㎡

国産材供給量:3,115万㎡

輸入材供給量:4,329万㎡

木材自給率:41.8%

  

一方で、日本の木材の自給率は41.8%です。輸入材の方が国産材より多い状況です。数字の観点では、森林資源を大きく減少させることなく国内だけで供給できるにも関わらず、輸入材が多用されていることも見えてきます。

  

ただし、日本の国産材供給量は増加傾向であり、木材の自給率は10年連続で上昇しています。平成14年(2002年)時点では自給率が18.8%まで低下していたものが、四半世紀ぶりに4割を超えたとのことです。これは、森林資源の充実、技術革新により合板原料としての利用量や木質バイオマス発電施設での燃料材利用量が増加したこと等によるものとのことです。

  

しかし更に増加させることが求められています。昨今のいわゆる「ウッドショック」において、国産材の需要が増えたものの供給が追い付かないことが話題となっています。木があるのに使うことができないことを示します。「「世界の森林問題が「木を切りすぎる」ことならば、日本の森林問題は「木を切らなさすぎる」こと」とする専門家もあります。供給量を増やすため更なる取り組みが求められています。

日本の森林の現状

では、日本の森林はどのような状況なのでしょうか?

  

林野庁は「林業の採算性の低下や、 所有者が不明な森林の顕在化、担い手の不足などにより、手入れ不足の森林が増えている。」としています。森林の荒廃は、多くの林業家や専門家が憂い、強い危機感を示すところです。細い木々が立ち並び、陽の差さない森、立ち枯れた木や倒木がそのままになっている林、根が浅く、降雨により木が流され地表があらわになった斜面など、荒れた森林を目にすることも多くなりました。

  

戦後の高度成長期における一次産業から二次・三次産業への転換、安価な輸入材の増加に伴う国産材の価格低迷などにより、森林の管理や林業に携わる人口は大幅に減っているようです。

  

「2020年農林業センサス」によると、林家(保有山林面積が1ha以上の世帯)の数は、平成17年(2005年)の約92万戸から約23万戸減少し、約69万戸になっているとのことです。また、林業を営む林業経営体の数も、約3.4万経営体であり、平成17年(2005年)の約20万経営体から15年間で8割以上減少しています。

  

働き手が不足した状態では、森林の管理・整備が行き届かず、更に荒廃した森林が増えることを示します。また、利用期を迎えた森林の伐採が進まず、その後の再造林も立ち行かないこととなります。造林には、整地、苗木の植え付け、下刈り、間伐など様々な作業が必要ですが、これらはいずれも多くの人手を要します。森林の有する重要で多面的な機能を鑑みると、これ以上の荒廃は何としてでも回避しなければなりません。

  crude_drug_230501_forest.JPG

   

 これらのことから、森林が蓄積され利用が進まない実態、林業の経済性の低下と人出不足、森林の荒廃など様々なことを学びました。国内産オウバクの流通の減少は、これらの実態の中に現れた現象の一つに過ぎません。一生薬、一樹種に着目して物事を考えるのではなく、日本の森林と林業全体に視野を広げ、学びを引き続き深め、我がこととして対策を考え、実行に移していかなくてはならないと思います。

  

 弊社の本社の所在する木祖村は、木曽川の源流に位置します。木曽川は長野県から岐阜県、愛知県から濃尾平野、三重県を経て伊勢湾に注ぐ流域面積5,275k㎡、幹川流路延長229kmの河川です。木曽川、長良川、揖斐川の木曽川水系の流域内人口は約190万人に達します。木祖村および下流域の豊かな暮らしの維持発展に木曽川は欠かすことができません。木曽川の豊かな水資源を守るために、その源である森林を守ることは、源流に所在する私どもの責任の一つであると考えています。このため、全く微力ではありますが、弊社でできることはいずれも取り組んでいきたいと考えています。

  

 さて、弊社では5月にキハダの植樹を行います。5月2日には、木曽の山林に1000本のキハダを植樹します。また5月16日には木祖村立木祖小学校の生徒の皆さんとキハダ植樹体験学習を行います。毎年のこれらの取り組みは多くの方々のご協力をいただいて実施しています。心から感謝しています。弊社のキハダ植樹の目的は、成長したキハダを将来の百草、百草丸づくりに役立てることのみではありません。キハダの植樹から生育までの長年の年月を、木曽の森、土、水についての学びの期間ととらえ、情報の収集、蓄積、発信ならびに学習機会の提供に寄与することを目指しています。実際にキハダの植樹に取り組むことで、種の採取、育苗、整地、植え付け、下刈りなど、多くのことを実際に経験し、学ぶ機会をいただいています。そしてご協力いただく多くの人々との出会いは本当に素晴らしいものがあり、感謝の念に堪えません。キハダの成長には25年の歳月を要することから、毎年続けていきたいと思っています。

  

 最後に、先日ある方から、小塩節(おしおたかし)氏著の「木々を渡る風」をお薦めいただきました。ドイツ文学者の小塩氏が、ドイツをはじめとする諸外国や日本の四季折々の木々について語られる素晴らしい本です。木々や自然を愛する気持ちが文面から切々と伝わり、読むだけで心地よく、また本当に読みながら爽やかな風の吹くような言葉に、感動してしまいます。冒頭で「どの木も、みな生きている。一本一本が、他の木には代わることのできぬ自分の生命を、動物と違って動かず地面に固着しながら、声も出さずに一生懸命に生きている。水と光と空気とから、自分自身で栄養を作り出し、おのが身を養っている。動物人類にそのおかげをこうむらぬものはない。」と言われています。木々の生命の尊さを心にし、人間を含む全ての生命が森林の恵みのお陰で生かされていることを忘れず、弊社の社業を、そして日々の暮らしを営んでいきたいと思います。

  

crude_drug_230501_katakuri.JPG

  

【出典】

「令和3年度森林・林業白書」林野庁

「森林を活かすしくみ」林野庁・総務省

「日本の森林を考える」田中惣次氏 株式会社明治書院

「森林の崩壊 国土をめぐる負の連鎖」白井裕子氏 新潮新書

「木々を渡る風」 小塩節氏 新潮文庫


日野製薬オンラインショップ

>>会員登録いただくと生薬ブログ最新情報をメルマガにてお届けします!メルマガ登録で更に300ポイントプレゼント!