生薬のこと

生薬・生薬を用いた薬づくり(第10回)

 中国古代の漢民族が体系立てた医学理論に基づく病気の治療法を中国医学といい、それに用いる天然の薬物を中薬(漢薬)といいます。これが5世紀の初頭に朝鮮半島経由で日本に伝来し、17世紀江戸の初頭から中期にかけて日本で独自に発展を遂げたのが漢方医学で、これに用いる天然の薬物を漢方薬といいます。日本は中国から多く薬物文化を吸収してきましたが、日本で独自に開発された天然の薬物(生薬)も少ないながらあります。これを和薬といって、漢薬を一緒にして和漢薬と呼んでいます。

一方、人類の発生当初から医療の専門家ではない庶民の間で経験的に見出されてきた治療法を民間療法といい、それに用いる天然の薬物(生薬)が民間薬(伝承薬)です。日本でよく知られているものに、腹こわしに使うキハダ(オウバク)、センブリ、ゲンノショウコ、切り傷などに用いるアロエ、ヨモギ、腫れ物にドクダミ、喉の痛みにナンテンなどがあります。

生薬は天然のお薬

天然の薬物(生薬)は、世界各地に存在しますが、これらは、それぞれの民族の住む気候風土や生活環境に合った治療法が存在しています。世界の三大医学の中国医学、インドのアーユルヴェーダ医学、エジプトやパキスタンなどの回教圏のユナニー医学の他、チベット医学、モンゴル医学、韓医学、タイ古医学、インドネシアのジャムウを用いる医学、ウイグル医学、ヨーロッパのハーブを用いた薬草医療、アフリカや南米の伝統医療など、これらの伝統医療で用いる薬物は全て天然の薬物(生薬)を用い、それぞれの文化をも反映したものなのです。

日本や中国で用いられている和漢薬類の自然界における比率は、植物性が約79%、動物性が約13%、鉱物性が約8%で、圧倒的に植物性の生薬が多く用いられています。

人類は、自然界からの恩恵を授かるために、絶え間ない試行錯誤を重ね、天然の薬物(生薬)を病気の治療に役立ててきました。そしてこうした天然物の中から近代薬が発見され、それを近代科学の力で変化させて現代の薬物が生まれてきたのです。

出典:難波恒雄著「漢方・生薬の謎を探る」