薬食同次元
きのこの贈り物

紅葉が日に日に進み、毎日彩りの変わる山々を眺めながら、秋の深まりを感じております。いかがお過ごしでしょうか。
秋といえば、きのこの季節です。先日、日野製薬の本社が所在する木祖村のご年配者の方が、平茸(ひらたけ)を沢山持って本社へ来てくださいました。今年94歳になられますが、とてもお元気な方です。大変立派で、つやつやと滑らかできれいな平茸に感激しました。原木で栽培したものを朝採って、持ってきてくださったのだそうです。「鍋に入れると美味しいよ」と教えていただき、白だしの野菜鍋に入れていただくと、つるつるとして大変美味しく、滋味深い味わいがしました。平茸は、食物繊維、ビタミンB群、ビタミンD、カリウムなどの栄養成分を豊富に含みます。朝採られたものを、夜調理する頃には、下に敷いていた新聞紙が湿って柔らかくなってしまうほど、多くの水分が含まれていました。朝晩が冷え込む季節の身体に染み渡るような、秋の味覚を堪能させていただきました。
後日御礼に伺うと、朝の畑仕事がひと段落し、休憩されていました。昔、私の亡祖父(日野製薬創業者の第十一代日野文平)と懇意にしていただいており、懐かしく楽しいお話を様々してくださいました。その一つが弊社の王滝店の大黒柱についてです。王滝店は、御嶽山麓にある弊社の直営店舗で、昭和58年に竣工しました。元々の設計では大黒柱にケヤキを使う予定でしたが、祖父からキハダを探してくれないかと頼まれ、太いものを方々探し、丸太を仕入れていただいたそうです。祖父はそのキハダ丸太を見に訪れ、これは良い、と大変喜んだそうです。王滝店の大黒柱はとても太く、このお話を伺うまで、まさかキハダとは気づきませんでした。当時大きな力を注いで新設した王滝店の大黒柱に、キハダを使いたいと願った祖父のこと、それに何とか応えようと懸命に探していただいたことを知り、胸が熱くなりました。
次に「源流会」についてです。弊社本社のある木祖村は木曽川の源流の里です。木曽川の最上流に味噌川ダムの建設が決まった頃、「源流会」を立ち上げ、長年にわたり会長を勤められた後、現在は顧問に就任されています。当時、木祖村長だった祖父に趣意書を見せると「これは良い、気に入った、すぐやってくれ」と言われ立ち上げたそうです。今に続く源流会が、源流の森を大切にし、その恵みを受けて生きる人々の交流や、意見交換の場として発足した経緯を初めて知りました。自由闊達に活き活きと暮らし、より良い村にするため尽力してきた先人のことを知り、現在の私たちも、出来る限りの努力をしていかなくてはならないと感じました。
帰りがけに、「平茸を見るか?」と聞いてくださったため、是非にとお願いし、拝見させていただきました。木曽川が見える美しい木陰に、原木が整然と立ち並び、大小の平茸が出ていました。平茸の原木は、本来トチノキが良いそうですが、木祖村の民有地に生えていないことからクルミを使っているそうです。冬に木の葉が落ち水が下がってから伐り、翌春に菌打ちすると良いと教えてくださいました。今は毎日ホースで水遣りしているそうで、こういうことが好きでね、とお話してくださいました。そして、再び平茸を採ってくださいました。御礼に訪れたのに、また沢山の平茸をいただき恐縮してしまいましたが、「日野さん(祖父)のことは一日やそこらでは語り尽くせない。またおいで。」とおっしゃってくださいました。
このように温かなお言葉やお気持ちをかけていただき、また祖父との活き活きとした思い出を教えていただき、大変有難くうれしく思いました。祖父とこの方のお陰で、現在の私が恩恵にあずかっていることに感謝の気持ちで一杯となりました。また、平茸の栽培を楽しんでいらっしゃることが心に残りました。本当に豊かな暮らしとは、季節の巡りに合わせてその土地の自然の恵みをいただくことと改めて感じました。「身土不二」という言葉があります。元々は仏教の経典に遡る言葉ですが、それを食に転じ「その土地で採れたものを、旬の間に食べることが健康に良い」という考え方も示します。ご自身の手で様々なものを栽培、収穫し、まさに身土不二を実現されていること、またその恵みを多くの人に分け与えて過ごしていらっしゃることに大変感銘を受けました。平茸のみならず、沢山の目に見えない温かく素晴らしいもの、そして大きな力をいただいて帰ってきました。木祖村には自然の恵みを用いて健やかに暮らす文化が連綿と伝わっています。そのことやその根底にある精神を未来につないでいかなくてはならないと感じました。
寒さの厳しい季節が間もなく訪れます。どうぞお身体にくれぐれも気をつけてお過ごしくださいませ。

日野製薬株式会社
代表取締役社長 石黒和佳子
出典:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年


