薬食同次元
「薬食同源」について
例年ですと、紅葉の見ごろは10月の中旬からですが、今年は残暑が長かったせいか、これからが本格的な紅葉のシーズンになりそうです。
「薬食同源」は、薬物と食物はその源が一つであるという、中国における食文化を語る言葉であり、その考え方です。
中国では古くから病気の予防、滋養強壮、病気の治療効果を高めるために、天然の薬物を食物と組み合わせておいしく食べる調理法がありましたが、これが「薬膳」で、目的に合わせて何種類かの薬用にも用いる食材を上手に組み合わせて、栄養、効能、色、香、味、形などをそろえ調理したおいしい料理が「薬膳料理」なのです。
日本においても生活の知恵から生まれた一般家庭に残っている養生があります。
寒い冬の日、風邪を引いて、熱があって首筋がこわばっているような状態の時には「くず湯」を、身体が冷えて嘔気があるようであれば「生姜湯」というように、お母さんが子供のために作って飲ませたものですが、これを漢方医療に置き換えると、前者は「葛根湯」で、後者は「香蘇散(こうそさん)」になります。
風邪を引いたら食事の後に「みかん」を食べて「シナモンティー」を飲むと、漢方医療では「陳皮」「桂枝」により風邪の症状を治すということになり、「桂枝湯」「麻黄湯」を服用することに近くなります。
カレーライスに使用するターメリックは「ウコン」ですが、ウコンには、肝機能保護作用、脂質代謝改善作用等があり、古くから薬としても用いられてきました。
私たちの身近にあるアンズの種「杏仁」、桃の種「桃仁」、カキの殻「牡蠣(ぼれい)」、アケビの茎「木通」、哺乳類の化石となった骨「竜骨」などは通常の食卓には上がりませんが、「牡蠣(ぼれい)」と「竜骨」はペアで使われることが多く、「柴胡加竜骨牡蠣湯」「桂枝加竜骨牡蠣湯」「桂枝甘草竜骨牡蠣湯」「桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蠣救逆湯」は動悸を鎮め、精神的興奮状態を鎮静化させる働きがあります。
また、例えば、カキの殻(牡蠣)を粉砕して植木鉢に入れておくと植物が元気になり、色の良い花を咲かせてくれます。
ずっと以前にも当ブログに書いたことがありますが、センキュウ末を枯れそうになった松の根元に撒いたところ、松が生き返ったのを見てその威力に感動し、亡き父(日野文平)が普導丸の配合生薬の一つとしたとの話もあります。
このように、私たちの生活する自然界には、薬物でもあり、食物でもある天然物がたくさん存在し、薬物と食物の境界が混然としていて判別のつかないものもたくさんあり、知らず知らずのうちに摂取していることも多くあります。
自然界から見出された薬用植物は、経験的に見出され、科学的に分析されることのない古い時代から、食事にとり入れられ、疾病の治療や予防に用いられてきたのです。
「薬食同源」という言葉は、このような背景から生まれた言葉なのです。
参考:後山尚久著:漢方医学入門(診断と治療社)