生薬とともに
キハダ植樹 2025年 ~②今年の植樹法~

5月18日、キハダ植樹を行いました。
本ブログでは今年の植樹法についてご紹介します。(一日レポートはこちら)今年も、昨年に引き続き、キハダ、及びキハダ以外の樹種を含む「混交林の植樹」に取り組みました。混交林とは2種以上の樹種からなる山林を示します。キハダ以外にヤマザクラ、イロハモミジ、エンジュ、エゴノキの植樹を行いました。
なぜ混交林の植樹に取り組むか?
弊社は、信州木曽の伝統薬である百草、百草丸、普導丸をはじめとする生薬製剤を製造、販売しています。これらの生薬製剤の主成分はミカン科落葉高木のキハダの周皮を除いた樹皮である生薬オウバクです。これらの生薬製剤をつくり続け、未来へ継承するために、良質なキハダを欠かすことはできません。しかしながら昨今、国内産オウバクの収穫量が年々減少しています。木曽の豊かな自然と風土の中でキハダを大切に育て、将来の薬づくりに生かし、多くの方々の健康長寿にお役立ていただきたいとの願いを込めて、キハダの植樹を行っています。
では、なぜ混交林の植樹に取り組むか?ですが、キハダのみの単一林の植樹に不安を覚えてきたためです。同じ場所にこのように沢山のキハダを植樹して良いのだろうか、と。弊社では、良質なキハダを生育し、将来の薬づくりに生薬原料として使用するのみならず、生物多様性、水源涵養、土砂災害防止など森林の多面的機能を発揮する森づくりを目指したいと考えています。木曽川源流の里である木祖村で社業を営む弊社は、豊かな水を育む豊かな森と土を未来の世代に残すことが責務の一つであると考えます。
また、キハダにとっても、様々な樹種の中で育った方が、競争はありますが、より自然でのびのびと成長し、結果として良質なキハダが生育するのではないかとも思います。このことはあくまで仮説であり、長い年月をかけて検証していく必要があります。しかし自然な環境でキハダが群生しているところを見たことはなく、キハダ同士は、ある程度互いに離れていることを好むようです。植樹した場合も同様ではないかと思います。
キハダを含む、多様な樹種が生育し、森林の多面的機能を発揮する豊かな森を目指すため、またこれによりキハダにとっても適した生育環境で良質なキハダを生育するため、混交林の植樹を実施します。
検討の経緯
混交林を具体的にどのような手法で植樹するか、最後の最後まで悩みました。混交林の植樹には「パッチワーク状混植」、「巣植え」など様々な手法があります。昨年は地方独立行政法人北海道立総合研究機構 森林研究本部林業試験場道東支場 中川昌彦氏による『パッチワーク状混植で混交林をつくる』を参考にさせていただき、「パッチワーク状混植」を行いました。今年も同じやり方で良いのか、昨年を踏襲しながらも何か新たな試みをすべきか、と悶々とする間に春が訪れました。そうこうしている間に、天然更新のキハダが多数生育する場所を村内に見つけました。このことは、私どものキハダ植樹の考え方に大きな影響を及ぼしました。キハダへの向き合い方の転換点となるような出来事でした。このことは別途詳しくご紹介します。
そのような中、道筋を示してくれたのは、昨年植樹したキハダを始めとする木々でした。4月下旬、昨年の植樹地へ生育調査に行くと、キハダ、ヤマザクラ、イロハモミジ、エゴノキが新芽を出し元気に育っていました。エンジュのみ残念ながら樹皮が食べられ芽を出していませんでしたが、全体を合計すると、80%以上の木々が芽を出していました。まだ2年目ですから今後どのように成長していくか分かりません。しかし、その元気な様子を見て、あれこれ思い悩むのはやめよう、昨年と同じ「パッチワーク状混植」で今年も植えようと心が決まりました。常日頃の製造・品質管理業務でも、検証時は、最低3回同じことを繰り返し、その結果を評価します。今年も同じ手法で植樹するのが、自然の流れであり、弊社の業務の基本に沿うやり方であると思いました。答えは現地現場にあり、また日常業務にあると改めて思いました。
今年の植樹法
具体的な植樹法をご紹介します。
●2つのエリアの設置
今年の植樹でも、昨年と同様、植樹地を2つに分割し、「キハダ植樹エリア」と「混交林植樹エリア」を設けました。キハダ植樹エリアには、従来通りキハダのみを植樹し、混交林植樹エリアには、昨年と同じ樹種であるキハダ、ヤマザクラ、モミジ、エンジュ、エゴを植樹しました。
今年の植樹地のどこにどのように2つのエリアを設けるか、これも悩みました。キハダにも、他樹種にとっても良いエリア分けにしたいです。
今年の植樹地は、鳥居峠の木祖村側、西の斜面に位置していました。カラマツやアカマツの針葉樹林を今年4月に皆伐した土地でした。面積は4.8ヘクタールで、周囲を背の高い針葉樹に囲まれていました。特に東側と南側は植樹地のすぐ隣まで針葉樹が迫っています。北側と西側は、少し間隔をあけて針葉樹が生育していました。キハダは陽樹で日当たりの良い場所を好みますが、一日中、日が当たるのも好まない、というのが弊社のこれまでの経験に基づく感覚です。一方、キハダは初期成長が早い樹種です。他樹種についても、好ましい生育環境や成長速度を今一度調査しました。
その結果、キハダ植樹エリアを斜面の下部の西側と斜面上部の北西側に設け、混交林植樹エリアを斜面の上部の東南側に設けることとしました。キハダを西側または北西側としたのは、東南側には背の高い針葉樹が生育していたためです。東南側に植えると朝日が昇りきらないと日があたりません。一方、西側または北西側は朝日がある程度昇れば、日があたり始め、午前中から午後にかけて日の光を最も得られると判断しました。斜面上部に植樹する他樹種が先に成長してしまうと、結局キハダが朝日を得ることができなくなりますが、キハダの方がヤマザクラを除く他樹種より成長が早いと考えられること、2つのエリア間に一定のスペースを開けることから、大丈夫だろうと考えました。
キハダ植樹エリア(斜面の下部・西側と斜面上部の北西側):キハダのみを植樹
混交林植樹エリア(斜面の上部・東側):キハダ、ヤマザクラ、モミジ、エンジュ、エゴノキを植樹
●キハダ植樹エリア
キハダ植樹エリアには、キハダのみを植樹しました。弊社本社のキハダの成木より2023年秋から冬にかけて採取した実の種から2024年に育苗いただいた苗木を1.8m間隔で750本植樹しました。
●混交林植樹エリア
混交林植樹エリアでは「パッチワーク状混植」を行いました。昨年は植樹地の面積があまり広くなかったため、1つのパッチの面積はおおよそ4.5m×4.5m、パッチ内の苗木は9本、苗木同士の間隔は1.5mでした。しかし今年の植樹地は面積が4.8hと広かったため、1つのパッチの面積はおおよそ9m×9m、パッチ内の苗木は25本、苗木同士の間隔は1.8mとしました。またパッチとパッチの間に、おおよそ1.8mのすき間を開けました。
また、樹種の配置においても、昨年と同様の考慮を行いました。ヤマザクラは初期成長が早いと聞いたため、キハダと隣り合うパッチにヤマザクラを配置しないようにしました。
キハダ、キハダ、ヤマザクラ、モミジ、エンジュ、エゴノキをそれぞれ25本×2パッチで、50本ずつ植樹しました。
昨年は混交林植樹エリアの一部に、パッチではなく、1本ずつ異なる樹種の苗木を隣り合わせに植樹する小エリアを設けましたが、今年は実施しませんでした。
また、植樹当日、なぜ昨年の植樹地で樹皮がほぼ食べられてしまったエンジュを今年も植樹するのか?と参加者の方からご質問をいただきました。現実的な理由として、冬の間に苗木を既に発注していたためです。しかしそれのみならず、昨年の植樹地で食べられても今回の植樹地が同様とは限らないとも考えました。なお、その後、昨年の植樹地において、樹皮が食べられたエンジュの幹の根本、枝の先から新たな芽が出てきて、多くが元気に育っています。この冬の間、ほぼ丸裸の状態まで樹皮が食べられ、あきらめかけていましたが、大変うれしいことです。植物の生きようとする力の強さはすごいと思います。
今後に向けて
植樹後に1000本の苗木について、植樹マップを作成しました。今後はこのマップに基づき生育調査を予定しています。今年は植樹1か月後、及び秋に生育調査を行う予定です。また夏には下刈りを行いたいと思います。生育状況をよく見守り、学びを得て、今後の植樹、保育にも生かすとともに、大きく成長するよう取り組んでいきたいと思います。
参考文献:
長野県 【長野県の特用林産物 ーキリ、 1980 ルシ、キハダについて一 】
長野県林業指導所【キハダ林造成技術、 1985】
日本森林技術協会 森林技術 No.883 2015.10 【「混植」のすすめ ~混交林の可能性~】東北大学大学院 農学研究科 教授 清和研二氏
同【パッチワーク状混植で混交林をつくる】地方独立行政法人北海道立総合研究機構 森林研究本部林業試験場道東支場 中川昌彦氏