縁(えにし)

2012年10月

今年は9月に入っても暑い日が続いていましたが、お彼岸の頃から、ようやく朝夕に気温が下がり、掛布団をかけて寝ないと寒く感じるようになりました。この気候の影響で例年より紅葉の時期が遅れるかもしれませんが、見事な紅葉を見ることができることを願っています。

東日本大震災から一年経った3月に、木曽らしい活動を通して東日本大震災の被災地の子供たちの心を癒し、元気づけることができないだろうかと考えていて、ふと数年前の中澤準一先生の楽器作りの講演を思い出しました。中澤先生は、赴任した各小学校の一年生に、中澤先生が考案された楽器バンドーラの設計図を描くことから、工具を使って木曽産の檜、翌桧、栂などの木材を加工して楽器を制作し、音楽の時間に、自作の楽器で演奏する楽しさを教えてきました。その後、楽器バンドーラの制作と演奏を体験した生徒たちに、バイオリンの制作と演奏を指導しました。中澤先生はストラディバリのバイオリン制作の秘法を解き明かすことをライフワークとしており、60歳になる直前に全ての秘法を解明されたそうです。現在、退職されて、木曽郡上松町に住んでおられます。

中澤先生に相談したところ、バイオリン作りは三百時間かかるので、三十時間でできる楽器バンドーラの制作がよいという助言と子供たちに楽器作りの指導をするという約束を頂き、8月20日から24日までの4泊5日、木祖村のやぶはら高原こだまの森で「楽器バンドーラの制作と演奏の実習会」を行う計画を立てました。やぶはら高原こだまの森には、東京大学名誉教授の畑村洋太郎先生が主宰されている危険学プロジェクトで開発された、世界に二つとない新型遊動円木、リング型ブランコ、回転ホッピング・シーソーが設置されています。昨年10月に、畑村先生から木祖村に寄贈されました。畑村先生は東京電力福島第一原発事故調査・検証委員長として、被災地の様子をよくご存じなので、協力をお願いいたしました。

実習会の開催期間に小学校が夏休みである福島県の被災地に呼びかけることにしましたが、なかなかうまくいきませんでした。重大な被害を受けた被災地は、住民が離散しているなどの実情を後から知り、無理な呼びかけであったと反省しました。最終的に福島県のいわきユネスコ協会の協力を得て、8名の小中学生と付添いの3名の父兄が参加する実習会を行うことになりました。

木祖村役場、会場のこだまの森、木祖村の企業の協力も得て、受け入れ態勢を整え、8月20日を迎えました。役場の交渉により、こだまの森に研修に来ていた名古屋芸術大学の学生5名が実習会の手伝いをすることになりました。2時頃に福島県から参加者が乗ったバスが到着しました。6時間半かかったそうです。開会式の後に実習会が始まりました。

初日は、参加者の好みの形(例えば、犬の顔、トラック、花びら)を楽器の胴体部分にして、画用紙に描き、さらに、弦と糸巻の取り付け部分を描いた後で、はさみで切抜き、設計図を作りました。その後に、板をのこぎりで切って、棹と糸巻部分を作り、ボンドで貼り付けたところで初日の作業は終わりです。作業が終わった子供たちは、世界に二つとない新型遊具に乗って楽しい時間を過ごしました。

二日目から本格的に加工作業が始まり、木材をのこぎりで切ったり、やすりで研磨したり、ドリルで穴をあけたり、のみで削ったりしました。様子を見に行ったら、子供たちは、脇目も振らずに作業をしていました。夜の9時頃まで作業をしたようです。中澤先生の熱心なご指導には頭が下がります。

加工が進み、胴体部分の組み立てと塗装が行われ、棹と糸巻取り付け部分の加工がされました

四日目の7時半から上松町の小森林(こもり)の会の方たちによる自作のバンドーラとバイオリンの模範演奏がありました。メンバーの中には85歳の女性二人がいましたが、79歳の時から3年かけて制作したバイオリンで見事に演奏をされました。

最終日の朝早くから最後の仕上げ加工をし、弦を張った後に、曲を演奏できるように教則本に従って練習を繰り返していたようです。12時から修了式を始めました。来賓の挨拶などのあとに、中澤先生の指揮のもとに実習会参加者による演奏がありました。日の丸、チューリップ、キラキラボシです。

子供たちがゼロから楽器を作り上げ、演奏できるようになり、本当にうれしそうで満足している様子を見て、実習会を実施して良かったと思っています。今後も継続して、毎年開催する予定でいます。


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