石黒和佳子社長ブログ
BUAISOU様との出会い
BUAISOU様への訪問
先日、徳島県のBUAISOU様を訪問させていただきました。BUAISOU様は、徳島の地で、藍染業を営まれている会社です。藍の栽培、蒅(すくも)造り、染色、デザイン、製作まで、かつては分業制であった仕事を一気通貫で行われています。キハダのつなぐご縁により、このたび訪問の機会をいただき、心から感謝しております。
BUAISOU様は、古い家や田畑の続く懐かしい風景の中に拠点を構えられていました。藍染の美しい暖簾をくぐり中に入ると、お忙しいにもかかわらず、とても温かくお迎えいただきました。そして日々の仕事をどのように行われているか、現場を巡りながら一つ一つ教えてくださいました。
藍染業の工程を教えていただく
染料液の発酵
まずは染料液をつくる工程を見せていただきました。蓼藍の葉を発酵・熟成させた蒅(すくも)を、灰汁(あく)と混ぜ、発酵させることで染料液がつくられるそうです。菌が色素を分解し、その分解された色素が酸化することにより藍色になるため、菌の繁殖度合いにより色合いが大きく変わるのだそうです。発酵の具合は、指で触って様子を確かめ、温度と時間で調整するとお聞きしました。自然環境、水や空気など様々な要素が大きく関係する工程を、人の感覚と技で良いものに仕立てていくのは、並大抵のことではないと感じました。
蒅づくり
次に蒅をつくる「寝床」と言われる部屋を見せていただきました。蒅づくりを専門に行う「藍師」という職業があるほど、大切な工程と教えていただきました。乾燥した藍の葉に水を加えて、むしろをかけ、秋から真冬にかけて発酵させるのだそうです。藍の山の上にむしろがかけられ、その上に神様がお祀りされた様子は、とても静謐でした。毎週、発酵中の藍をひっくり返し、水を加える「切り返し」という作業を行われるそうです。特別にむしろをめくり、藍の葉の中に手を入れさせていただきました。すると、とても熱くて驚きました。そしてお茶のような、生薬のような香りがしました。今はまだ発酵をはじめて1か月ほどのため、香りが優しいそうです。真冬に切り返しを行う時は、このように生易しいものではなく、大変なアンモニア臭がすると伺いました。また目の前が見えないほど湯気で白くなるそうです。厳しく、根気のいる蒅づくりのことを初めて知りました。そして、大変驚くことを伺いました。世界中に藍染めの文化はありますが、蒅づくりは日本でしか行われない、またその理由は明確ではないのだそうです。日本古来の発酵の文化の奥深さを目の当たりにするようでした。
蓼藍の栽培、収穫、選別と乾燥
その後、栽培された藍を収穫し、葉と茎に選別する工程、乾燥させる工程を行う作業場を拝見させていただきました。春から夏にかけて行われる藍の栽培、収穫だけでも大変だと思います。乾燥はハウスの中で行い、一日に何度も藍の葉をまんべんなくひっくり返す作業を行っているのだそうです。ビニールハウス内の暑さは想像を超えるものだと思います。皆黙って黙々と作業をしている、とのお話に、ただただ感心しました。弊社でもキハダの樹皮であるオウバクを製造に用いた後の「オウバク残渣」を乾燥するため、試行錯誤を行っています。暑い時期は少し放っておけばカビが生え、寒い時期は天日干しにしてもすぐには乾きません。やはり容易にできることではなく、厳しい作業であっても繰り返し、手間をかけるしかないのだ、ということを改めて感じ、勇気をいただくような気持ちとなりました。
縫製
最後に、縫製の現場も拝見させていただきました。ミシンがいくつも並ぶ工房は壮観でした。また、ジーンズを縫製する時は、糸染めして織られたデニムの生地を、藍の茎で染めた茶色の糸で縫うのだそうです。何も無駄にされていないことにも感銘を受けました。
自然の恵みとともに
全ての工程を拝見し、BUAISOU様は一年を通して藍とともにあることを感じました。藍の栽培から始まり、蒅づくり、染色、デザイン、製作まで一気通貫で行われていることから生み出される作品の素晴らしさ、精錬とした美しさ、すごみのようなものも感じました。一方で、一気通貫であることは必ずしも希望してそうされている、ということではなく、そうせざるを得ない実態もあるのだと認識しました。藍師は、古くは徳島県内だけでも2000軒あったものが、現在は全国で7軒しかないそうです。また蓼藍の栽培農家も減少しているということです。蓼藍の葉を安定的に入手し、良質な蒅をつくり、将来に亘り目指す姿の藍染を行うため、ご自身たちで取り組まれているものと思います。
このことはキハダの現状と似ています。キハダの樹皮である生薬オウバクについても、国内産は年々減少しています。林業に携わる人口が減少し、キハダが山に生えていても、それに気づき、皮むきを行い、オウバクを里に下ろす人が減っていることが背景にあります。弊社では国内産オウバクを用いた薬づくりを継続したいと考えています。このためには自分達でキハダを植樹し、育て、未来の薬づくりに使えるようにすること、また、今既に成長しているキハダを探し、皮むきをさせていただき、薬づくりに用いるしかありません。藍は農業、キハダは林業と異なりますが、一次産業の置かれる現状が容易なものではないことは共通していると思います。一日として同じではない自然に向き合い、日々過ごすことは、多くの豊かさや気づきをもたらしてくれますが、同時に非常に厳しいものであると感じています。
しかし、だからこそ、継続するしかないと思います。自然の恵みに感謝し、それを用いて、毎日の暮らしを豊かにする何かをつくり出す、という古くからの文化を、未来へ継承していかなくてはなりません。藍染、薬、とつくるものは異なりますが、長野県から遠く離れた徳島県の地に、このために日々汗をかき、厳しさを身に受けながら、藍とともに歩み、少数精鋭チームで世界に羽ばたくものづくりをされているBUAISOU様に、大きな、大きな力をいただきました。
最後に
最後に、BUAISOU様の皆様が、藍染の衣服を身に付けられ、指先が藍で青く染まっていることが心に残りました。藍とともに歩む覚悟が、姿形から伝わって来るようでした。また色を通して世界とつながりたいとのお話も伺いました。素晴らしい出会いに心から感謝しております。
日野製薬株式会社
代表取締役社長 石黒和佳子
出典:BUAISOU様ホームページ