縁(えにし)

2008年10月

今年は「夏でも寒い」と木曽節の中で唄われているのが嘘のような猛暑が続きました。  

最近の気候の変化や災害情報を見聞きするにつけ、地球温暖化の影響が深刻化しつつあるように感じます。東北大学大学院環境科学研究科の石田秀輝教授によると人為的な二酸化炭素の年間排出量が七十一億トンで、地球の二酸化炭素吸収力は三十億トンであり、差し引き四十億トン蓄積されていくので、地球温暖化がより進展するということです。従って、二酸化炭素の発生量を減らすことと、これ以上地球の吸収力を低下させないように森林の保全をすることが重要です。  

 弊社創業者の日野文平名誉会長が昭和五十二年から十二年間木祖村の村長であったときに、味噌川ダム建設への取り組みが重要な課題でした。当時はダムによって埋没する地区の補償問題という捉えられかたが常識でした。また、河川は建設省、森林は農林省という縦割り行政であったため、ダムと森林の保全が結びついていると発想する人は誰もいませんでした。名誉会長は「水は誰のものか」と問題の本質を洞察し、水は国の資源であり、ダム建設後の水源の保全は流域全体の利益になるのだから、一時的な補償問題でなく、村が将来に亘って水源の保全ができるように整備する必要があると提起した結果、国の資金がつき、ダム建設と平行して、村の基盤整備をしました。更に、下流域の日進市が木祖村において「平成日進の森」の植林を開始し、「流域は一体」が実現されました。このように先駆的活動をしたことから名誉会長は源流村長と呼ばれました。木祖村は名誉会長の意志を継ぎ、源流の里として水源と流域の保全に努めてきました。今年は八月三十日に第九回全国源流シンポジウムを開催しました。村長を始め村の人たちの周到な準備により、全国から集まった約七百名の参加者に満足していただける大成功の大会でした。パネルディスカッションのコーディネータの宮林茂幸先生が「源流と流域は運命共同体で一体化が必要」と結びました。名誉会長が蒔いた種が全国に広まり、このように実を結んだことは感無量です。

  最近、熊、猪、猿などの獣害が問題になっています。これは森林の手入れを怠っていることに起因していると思います。私が子供の頃は、家は木造で、薪や炭が燃料であったので、必然的に生活の糧である木の植樹、育林、伐採がされ、針葉樹だけでなく広葉樹も育ち、広葉樹は夏の間は適度な日陰をつくり、枯葉は堆肥となり、その葉や実は獣の餌になるというように重要な役割を果たしていました。ところが今は材木として貴重な檜などの針葉樹の育林が中心であるのと、手入れがされない森林は針葉樹が生い茂り、光が差し込まないために広葉樹が育ちにくい環境になっています。そこで、昨年から木祖中学校の生徒や地域の人たちと広葉樹の植樹をしています。更に、社業として百草・百草丸の原料である広葉樹のキハダの植樹・育林に取り組み、良質な原料の確保と森林の保全に寄与していく所存です。

  これ以外の環境問題への取り組みとして、昨年、御嶽山麓の里宮店を改造した時に、それまで汲み取り式のトイレであったのをバイオ式浄化槽の水洗トイレにしました。浄化槽の中に入れた、酸素が全く無いところで生息できるバクテリアが、汚水・汚物を酵素分解し、かつ、水分を発酵熱で蒸発させるので、浄化水の放流をする必要はありません。エネルギー消費がなく、維持費が全くかからない無公害の循環型システムです。里宮店は冬には御嶽山からの風をもろに受けるために零下二十度近くになることがありますが、浄化槽が地下二メートルのところに設置されているので、バクテリアが生息できる温度が保てるようです。今後、この方式を御嶽山中の山小屋でも使うように働きかけていこうと考えています。
今後も環境問題に取り組み、社会に奉仕していく所存です。


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