日野製薬と生薬

キハダとは きはだ・黄柏・オウバク

鮮やかな黄色の樹皮をもつキハダ。
古くから薬用、染料に用いられてきたキハダと、
生薬オウバク、日野百草丸との関係をわかりやすく紹介します。

キハダの内側の黄色い樹皮

キハダの基本情報

キハダ(Phellodendron amurense)は、ミカン科キハダ属の落葉高木です。キハダの周皮を除いた樹皮は生薬オウバクです。 オウバクは鮮明な黄色を呈し、これがキハダの名の由来とされています。オウバクは古くから薬用としても、染料としても用いられてきました。

【和名】キハダ【学名】Phellodendron amurense
【分類】ミカン科キハダ属
【種】東アジアに約9種、日本に1種のみ自生。変種としてヒロハノキハダ、オオバキハダ、ミヤマキハダなど
【分布】冷温帯から稀に暖温帯地域。北海道・本州・四国・九州、および朝鮮、アムール、ウスリー、中国北部など
【生育環境】山間地域の光環境に恵まれた谷筋を中心とした地域
【別名】キワダ、オウバク、オオツキ、オオバリ、オヘギ、シコロ、シケレベ(アイヌ)など

キハダの特徴と形態

⚫︎キハダの主な特徴

キハダ

2023年開田高原キハダ 撮影:日野製薬

キハダは、厚いコルク質の周皮の内側に、鮮やかな黄色の樹皮があります。雌雄異株(しゆういしゅ)で、雄花と雌花を別々の個体につけます。

⚫︎キハダの樹形

キハダ

2023年日野製薬本社キハダ 撮影:日野製薬

キハダは、単幹性(一本幹)の高木で、樹形はほうき状です。山地に自生し、樹高が25mを超え、直径が1mにおよぶ大樹になることもあります。

[キハダの部位ごとの特徴詳細]

◼︎周皮

キハダ周皮 2021年木祖村のキハダ 撮影:日野製薬

壮齢以降のキハダの周皮は厚いコルク層をもちます。良質ではないものの、コルクを取ることもできます。

◼︎周皮を除いた樹皮

キハダの樹皮と内側の黄色い樹皮 2021年木祖村のキハダ 撮影:日野製薬

キハダの周皮を除いた樹皮は生薬オウバクです。オウバクは、日本の医薬品の性状や品質の適正を図るための公定書である「日本薬局方」に収載された生薬です。古くから、胃腸薬や外用薬として民間療法に用いられてきました。
また、オウバクは染料としても用いられてきました。東大寺正倉院の文書には、オウバクで黄色に染められた和紙が使われています。オウバクには防虫作用があることが経験的に知られ、経文などの重要文書を保管するために重宝されました。

◼︎葉

キハダの葉 2024年開田高原キハダ 撮影:日野製薬

葉は、奇数羽状複葉(きすううじょうふくよう)で、小葉が鳥の羽のように葉軸の左右に並び、先端に一枚の小葉があります。小葉は、卵型の小さな葉で、1枚の葉に5〜13枚ついています。葉全体の長さは約20〜40cmです。 キハダの材は、辺材はわずかに茶色みを帯びた明るい灰色で、心材は緑色を帯びた黄褐色です。木目が明瞭で、光沢があり美しく、加工しやすいのが特長です。
キハダの葉は、茎の一つ節に二枚の葉が向き合ってつきます。これを対生(たいせい)といいます。葉をもむと、ミカン科らしい香りがします。

◼︎花

キハダの雌花(左)と雄花(右) キハダの雌花(左)と雄花(右) キハダの雌花(左)キハダの雄花(右) 撮影:日野製薬

キハダは「雌雄異株(しゆういしゅ)」といって、雄の木と雌の木が分かれる植物です。
花は初夏に咲きます。雄花には花弁より長い5〜6個の雄しべがあります。雌花には子房が5室あり、花柱は短く、柱頭は5裂しています。
キハダの花には、ミツバチなどの昆虫が訪れます。キハダの花から採れる「キハダはちみつ」は、短期間しか採蜜できず、希少で流通量が少なく、柑橘系の爽やかな香りと甘さが特長です。

◼︎実

キハダの実夏秋 飯山キハダ(左)木祖村キハダ(右) 撮影:日野製薬

キハダの実は、隔年結果の傾向があり、二年に一度程度なります。夏は緑色ですが、秋には濃い緑色となり、初冬には熟し、黒くしわのある状態となります。山椒より少し大きく、黒コショウのような外観です。

実は、柑橘系の爽やかな香り、甘さと特有の苦み、及びピリピリとした辛みがあります。
日野製薬本社のある木祖村では、キハダの実を用いてキハダ餅をつくる食文化があります。アイヌ民族は、キハダの実を香辛料として用いています。

◼︎材

キハダの材 2024年開田高原キハダ 撮影:日野製薬

キハダの材は、辺材はわずかに茶色みを帯びた明るい灰色で、心材は緑色を帯びた黄褐色です。木目が明瞭で、光沢があり美しく、加工しやすいのが特長です。
古くは家具材や細工材に用いられてきましたが、材の流通量が少なく、利用は限られています。

キハダとくすり

⚫︎キハダと生薬オウバク

キハダの樹皮キハダの樹皮
周皮を除く前
内側の黄色い樹皮内側の黄色い樹皮を
乾燥


 キハダの周皮を除いた樹皮が生薬オウバク(黄柏)です。 苦味健胃・整腸・下痢・消炎・腰痛・収斂薬などに用いられます。
 オウバクは、今から1万年前の旧石器時代から縄文時代の遺跡に発見されており、日本最古の生薬とも言われています。 また、中国最古の薬学専門書「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」の中品に「蘗木」として収載され、漢方の要薬でもあります。
 オウバクエキスは暗褐色で、特異な臭いがあり、味は極めて苦いです。有効成分には、塩化ベルベリンなどがあります。 長野県木曽の「百草(ひゃくそう)」、奈良県吉野の「陀羅尼助(だらにすけ)」、山陰地方の「練熊(ねりくま)」は、古くから伝わる胃腸薬でオウバクエキスを用いています。

⚫︎オウバクと百草、百草丸

百草・百草丸画像

 信州木曽の伝統薬である百草、百草丸の主成分は、オウバクエキスです。


百草【第2類医薬品】

 百草(ひゃくそう)は、日野製薬の原点である民間伝承薬です。生薬オウバクを乾燥、裁断し、水で煮出して煮詰めたオウバクエキスを板状にした単味の乾燥エキス剤です。下痢、消化不良による下痢、食あたり、吐き下し、水あたり、くだり腹、軟便に効果がある胃腸薬です。一時的に下痢を止めるだけでなく、下痢を伴う胃腸の諸症状に働きかけ、便通を整え、胃腸全体の機能を正常にします。また、古くは「万病に効く腹薬」と言われ、民間で胃腸病以外の疾病にも用いられました。百草の由来には諸説ありますが、江戸時代に御嶽山を開山された修験者またはその高弟が御嶽山麓の村人に製法を伝授したのが始まりと言われています。

日野百草丸【第2類医薬品】

 百草に複数の生薬を配合したのが日野百草丸(ひのひゃくそうがん)です。日野百草丸は、主成分のオウバクエキスを含む7種類の生薬を配合した丸剤です。食欲不振、胃部・腹部膨満感、消化不良、胃弱、食べ過ぎ、飲み過ぎ、胸やけ、もたれ、胸つかえ、吐き気、嘔吐に効果がある胃腸薬です。健胃、整腸、粘膜修復作用のある生薬を組み合わせたことで、弱った胃腸に緩やかに働きかけ、胃腸の調子を整えます。

⚫︎木曽は薬草の宝庫

キハダの若木

キハダの若木。木曽にて2025年日野製薬撮影


 木曽は自然豊かな地域で、古くから薬草・薬木の宝庫としても知られてきました。
 江戸時代に、木曽を管轄していた尾張藩は、豊富な薬草に着目し、分布調査を実施しています。 また、尾張藩の名代として木曽を治めていた山村代官家は、薬草の採取と買い上げを推進していたと言われています。
 江戸時代の享和3年(1803年)に発行された本草学研究書の『本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)』には、蘗木について「木曽山中より出すを美濃皮と称し、上品とす、薬用染料共に良とす」との記述がみられます。
 当時、木曽山中から出るオウバクを美濃皮と称し、上質で、薬用、染料ともに良いとされていたことが分かります。
 木曽地域には良質なキハダが生育していたことが、百草をはじめとする伝統薬が現代まで伝わる理由の一つと考えられます。

⚫︎国内産オウバクの現状

国内産オウバクの生産量

※国内産オウバク生産量割合とは「国内産オウバク生産量÷総使用量×100」を示す。 現在は海外産の輸入が多くを占める。
出典:日本漢方生薬製剤協会「原料生薬使用量等調査報告書」より日野製薬作成


 良質な薬づくりに良質なキハダを欠かすことはできません。 しかしながら、国内産オウバクの生産量は年々減少しています。
 林業従事者の高齢化や減少、天然キハダの減少、栽培の停滞などが影響していると考えられます。

日野製薬のキハダへの取り組み

 日野製薬では、国内産生薬を用いた薬づくりを継続していきたいと強く願っています。この考えのもと、希少な国内産オウバクから抽出したオウバクエキスを配合した日野百草丸(国内産オウバク配合)の製造販売を数量限定で平成17年より実施しています。 そして、キハダについて主に下記のような取り組みを実施しています。

  • キハダ植樹
  • キハダ保育
  • キハダ一本から買います活動
  • キハダ皮むき
  • キハダ実の収穫
  • キハダ育苗
  • キハダ苗木の配布
  • キハダ生育調査
  • 「キハダプロジェクト」の実行(キハダの全ての部分を余すところなく利活用)
日野製薬のキハダ育苗・植樹・管理・皮むき・実の収穫の流れ キハダ植樹2026

2026年キハダ植樹集合写真 撮影:日野製薬

キハダに関するよくある質問

キハダとは何ですか?

キハダはミカン科キハダ属の落葉高木で、樹皮が鮮やかな黄色をしていることが名前の由来とされています。黄色の樹皮は古くから、薬用、染料として用いられてきました。

キハダとオウバクの違いは何ですか?

キハダは樹木の和名です。キハダの周皮を除いた樹皮が生薬オウバクです。

キハダには雄の木と雌の木がありますか?

キハダは雌雄異株で、雄花と雌花を別々の個体につけます。雄花のついた木を雄の木、雌花のついた木を雌の木と呼ぶことがあります。

キハダの葉にはどのような特徴がありますか?

小さな葉が羽のように並ぶ奇数羽状複葉で、ミカン科らしいさわやかな香りがあります。

日野製薬はなぜキハダを植樹しているのですか?

木曽の自然の恵みの中で、キハダを大切に育て、将来の薬づくりに生かし、多くの方々の健康長寿にお役立ていただくため、そして、自然の恵みを用いて健やかな暮らしを維持する木曽の先人の知恵と経験を未来につなぐためです。

参考文献

本ページは、下記の資料をもとに作成しています。

  • 厚生労働省「第十九日本薬局方」(2026)
  • 日本樹木誌編集委員会「日本樹木誌 2」(2023)
  • 長野県林務部「有用広葉樹造林の手引き(平成12年増補)」(2000)
  • 長野県「長野県の特用林産物 ―キリ、ウルシ、キハダについて―」(1980)
  • 長野県林業指導所「キハダ林造成技術」(1980)
  • 長野県衛生部薬務課「信濃の民間薬 ~くすりのルーツを探る~」(1990)
  • 日本生薬学会関東支部「第35回生薬に関する懇談会 講演要旨集 テーマ『黄柏』」(2019)
  • 生薬学雑誌「日本における原料生薬の使用量に関する調査報告」(2025)